無題


「なあに悩んでるのー?」
机に突っ伏している私を後ろからぎゅっと抱きしめてくるクダリさん。相変わらず抱き着き癖は治す気がないらしい。
「明日ってホワイトデーじゃないですかあ」
「あーそっかあ」
「それで、ノボリさんに何あげようかなあって」
「……?あ!そっかバレンタインノボリがあげたんだっけ」
「はい」
「うーん気にしてないと思うしあげなくてもいいんじゃない?」
「それはちょっと」
私の頭の上に顎を置き喋るクダリさんが唸っているが、振動がきて変な感じがする。
「別にありきたりなやつでいいんじゃない?」
「はあ、そんなものですか」
「うん、そんなもの。トランクスでもいいじゃない?」
「それはあのバレンタインコーナーによく陳列されているやつですか」
「そうそう!それー!」
あ、ぼくダブル行かなきゃ。すくっと立ち上がったクダリさんは私の頭を一撫でしてダブルに行ってしまった。
その姿を見ながらノボリさんとはまた違うだよなーと思う。……んー。


「なまえさま」
「なんですか」
徹夜明けやっと眠れる!と仮眠室だけを求めて歩いてた私に向こうからやってきたノボリさんが声をかけてきた。止まったらノボリさんがパチンと腰の時計を開いて、時刻を確認して閉じる。出来れば早くして欲しいと感じてしまう私は我ながらどうかと思う。
「これ、もらってくださいまし」
紙袋が渡される。
「……?なんですか、これ」
「チョコレートでございます」
「……あ!バレンタイン!!」
「やはり忘れていらっしゃいましたか」
「で、でもなんで」
「いらないなら捨てていただいて結構です、なまえさまは徹夜明けですし、元々こういうことに向いてないでしょう」
「……ふぁい」
ちょっといやかなりムカついて事実で少しむすっとして頷く。顔色一つ変えないノボリさんが少しだけ表情を緩ませる。
「食べてくださいますか?」
「……」
「良かったです」
頷いた私にノボリさんは嬉しそうな声でそう言ってそのまま歩いて行ってしまった。
イケメンか。後ろ姿さえ眩しい気がする。
「すご」
綺麗なラッピングを開ければ、お店で買ったのかと思うようなチョコレートが入っている。しかしこれ確実に手作りだ。女子か。
「おいひ」
ノボリさんも同じ以上に働いてるはずなのにいつ作ったんだろう。
思い出せば出すほど、どうなんだ私。ノボリさんも私も生まれてくる性別間違えたんじゃないのか。
自分の不甲斐なさを感じながらも、さらっとあーいうことができちゃうノボリさんに腹が立つ。
つまり立つ瀬なしである。どうしようかなあ。
トランクスはさすがに却下だし、あんな素敵なものにありきたりなのを返すのは気が引ける。というかちょっと負けた気がする。ノボリさんのあのイケメン面を少しは歪ませてやりたいっていうのが本音だったりするわけだ。



「ノボリさん」
出勤してすぐデスクで書類をしていたノボリさんを見つける。
「なんですか」
最近書類処理の時に掛けている眼鏡を指で押し上げるその仕草にきゅんときている私に首を傾げるノボリさん。
「目、閉じてください」
「は、はあ」
少し不思議そうな顔をしながらも目を閉じたのを確認して、片手に持っていた紙袋から例のものを取り出す。
「開けてもいいですよ」
ノボリさんの目の前に赤い薔薇の花束を突き出した私が見えただろう。
きょとんとしたノボリさん。よっし、勝った。
「あ、あのなまえさま、これは」
「ホワイトデーです」
返答がないノボリさんを見れば、いつもの余裕そうな表情なんて微塵も感じないような表情。視線がかち合えば私の頭をぐいと抑えられ横に向けられてしまう。ノボリさんの顔が見えない。レアなノボリさんが見れない!
「こっち見ないでくださいまし!」
「……そっくりですよ、真っ赤」
「お黙りなさい!」

――――――
2014年WD
H25.03.12

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