「なまえ」
「なんですか、インゴさん」
座っていたインゴさんが指で手招きをする。された私はとてとてと歩いていく。近付いた私の頭を撫でるインゴさんは満足そうなものだから、私はつい目を閉じてしまう。恥ずかしいし、心地良い。
「!」
目を閉じた私の行動をなんと思ったのかインゴさんはいきなりキスをしてきたのだ。
早急に舌を突っ込まれ、何事かと目を見開いた私にきょとんとした表情をするインゴさん。
「……はっ、いきなっ!ふあ」
「ん……」
一度口が離れたので抗議しようと口を開ければ、また塞がれる。
「んぅ!」
こんなの初めてだ。私に気を使ってくれているのか、触れるだけのキスばかりだったはずなのに。
それなのに、今日は、なんで。
ダイレクトに感じるインゴさんの荒い息に、変な気分にされてしまう。
「……すみません、我慢できませんでした」
「あ、の、いえ」
腰が砕けたのか私は膝から崩れてしまい、インゴさんに支えられる。
すっと離れた唇をつい凝視してしまっていた私は慌てて目を逸らす。
「嫌がらないでくださいまし」
「……大丈夫ですよ」
少し不安そうな表情のインゴさんにゆっくり抱きつく。
座っているため彼の胸板に頭を寄せる。
……え?
あれ?
私はついインゴさんを見上げる。
インゴさんは首を傾げている。
「どうかしましたか、My sweet.」
ちゅっと私の髪に口づけを落とすインゴさんに照れたりしてる余裕もなく、私は彼の胸のあたりに耳を当てた。
肉の軋むような微妙な音は聞こえた。それなのに心臓の音が聞こえない。
トクリとも音がしなかった。
彼は私のことが好きではなくて、本当はどうでも良くて、それでドキドキなんて聞こえない、だからと言っても一つも聞こえないのはおかしくないか。
私は動揺を気取られぬように寄せたまま、考える。
「インゴさん、病気とかは?」
「Hum……なにも。どうかされましたか」
耳を寄せたままの私に機嫌のよさそうなインゴさんが首をかしげる。
「いえ、なんでも」
私はそっと離れる。
インゴさんの綺麗な深い藍色のような瞳が私を覗く。
何故、彼の心臓は音をたてないのだろうか。
とまっているから?ない?どれもこれもありえない。でも、それでも、私が異世界からやってこれるくらいだ、死体が動くくらいならありえなくはないのではないか。ゴーストタイプのポケモンがいるくらいなら、きっと。

彼は、生きていないのだろうか。
私は途端怖くなった。
でも、やはりこれから私が生きてくには彼に頼るしかないのだから。
私はにっこり笑ってこう言いました。
「I love you.」

サイッテー。

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