▼05
ノボリ最近眠そう、というか大丈夫?
ええ大丈夫です、気遣ってくださるならばこの書類をもっと努力して減らしてくださいまし。
んー無理。
そんな会話をして2時間、弟は先ほどまで退屈そうにすこしずつわたくしの半分ほどのスピードで頑張っていたがダブルに挑戦者が現れ、スキップで出て行った。
クダリに心配されるとは、わたくしは本当に……。
「いけませんね。最近、3日に一度はあまり眠れていないからと言って……」
つい口からこぼれたそれ。
「なんで?」
!!
覗き込むようにわたくしを見ていたクダリ。
「い、いつの間に……」
「ねえ、それよりなんで?そんなに徹夜してないよね?ねえなんで」
「ちょ、ちょっとありまして」
「ふーん」
まいいけど、とまた派手な音を立ててクダリが椅子に座った。
その後シングルに乗車したわたくしが帰ると、山のように沢山あった書類がクダリによって完璧に仕上がっていました。
……。
「あ、ノボリさん」
彼は一番初めに会った時の正座対談会のような正座で自室に入った私を待っていた、ベッドの上で。
「どうしたんですかー」
「あの」
私はどうも敬語の最後を伸ばしてしまうようだ。
しかしノボリさんはもじもじと何も言おうとしない。まあ結構なんですがね、なんか性的ーって感じでいいと思うよ。恥じらいおいしい、でもあなたは男なんでやめてくださいね。
「もしよろしければあなたの知っていることをできる限り教えていただきたいのです」
深々と三つ指をつくかの如く、頭を下げるノボリさんの姿に私はああこの人は確かに私の知っているサブウェイマスターのノボリさんなんだろうと自覚した。
これまで全く動きのなかった私とノボリさん。
私としては逆トリ特有の一人暮らしじゃない為どうしようかと思ったが、ノボリさんは一夜で帰ってしまうからベッドで寝られないという問題以外はない。むしろノボリさんの生態はとても面白いぐらいだ。
一度起こさず眺めてみていたが彼は時折寝ぼけて面白いことをしたりする。(いきなり立ち上がられたときは部屋の暗さもあってそれなりの恐怖体験だったけど)
つまり私は来なくなったら少し寂しいというつもりだった。
それに正直言うと話の振り方がわからなかった。私はそれなりにベッドが恋しいし、なによりノボリさんの腕の中で眠るフラグが立たないのも問題だ、立ったら立ったで逃げるだろうけど。
でもノボリさんは違う。社会人である。お気楽学生とはまた違うんだろう。
これからについてもいろいろ考えたい、あっちとでの睡眠時間の減り方が大変だ。とまあ、言い説かれた私。
「その言葉を待ってました」
なんてかっこよく言える程私は中二病を患ってはいないが、心の中で言っておく。
「ノボリさん、きっと驚きますよ」
「覚悟の上です」
「はあ」
神妙な表情のノボリさんとは裏腹に私の気持ちは何故か急降下。
「これ見てください」と言って、私は部屋にあるつい買ってしまった数あるなか攻略本のひとつを彼に見せる。表紙を見て不思議そうにする彼。私はクダリさんとノボリさんがキメポーズしてるページを開いて渡す。『君もポケモンを〜』みたいな感じの台詞が爽やかな限りで私の目の前のノボリさんに似合ってない。
ばたんと攻略本を落としたノボリさん。あ、太ももに落ちた、分厚いのに角で……痛そう。
「ノボリさん」
「い、いい加減にしてください!!わたくしは、わたくしは本当のことを聞きたいのです、こんなふざけたもの――」
「ふざけてません、ふざけてませんよ」
「――っ」
覚悟どこ行った。この人は子供のようだ、現在進行形で子供をしてる私から見ても子供だ。あ、痛かったのか今さらながら太ももを摩っている。
「す、すみません。つい、取り乱してしまいました」
泣きそうなノボリさんの声。正座のまま俯く彼は、図体でかいのに小さく見える。
しかしノボリさん、表情全く変わらないな。態度は分かりやすいけど。
「いいですよ、むしろ大丈夫ですか」
「優しいのですね」
「……ん、なんか違いますよ?普通に考えて私の言ってることの方がおかしいですし」
「そうですね」
いやそこは否定しましょうよ。
「あ、いえ。ちょっと少し、ストレスが溜まっていたといいますか……」
「はあ、大丈夫ですかー」
「あ、はい。すみません大声なんて出して。ご家族大丈夫でしょうか。」
「うーん、大丈夫でしょう。で、なにかあったんですかー」
「……いえ、あの何かあったというわけでは」
「……あ、そーですか」
煮えきらない態度のノボリさんにイラっとして不機嫌そうに答えると、わたわたとするノボリさん。この人はほんとに……。
「あ、あのですね、そういういらないとかそうではなくて、わたくし個人のことで」
「あの」
だから、ですねと申し訳なさそうに口ごもっていたノボリさんが私の方を見る。
私にしてはキリッとした声がでた、やばい私すごい!!
「それやめましょう、私からしたら毎日、ノボリさんでも3日に1度嫌でも顔合わせるんですから」
「えっと、どういう意味でしょうか」
「だからどもらないでください、あと遠慮とかうざいです」
私の言葉に傷ついたのかぴくりと表情筋が悲しそうに動いた。少し申し訳なくなってきた……お前は捨てられた子猫か。
「で、ノボリさん。なにかあったんですか」
そして01に続く。
わけではなく、ノボリさんの説得に実際には30分、気持ち的には2時間ほど掛かったのだが。