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ええ、そうなのでございます。
わたくしはわたくしなりにサブウェイマスターとしての責務を果たしているつもりでございます。
しかし、わたくしの片割れ――クダリというのですが、ああ知っておられましたか。
アレを見る度にわたくしは自分が不必要ではないのかと、そう思うのです。
いえ、クダリとはこの歳の兄弟にしては中々珍しいくらい良好だと思います。なんといっても血を分けた、双子でございますから。しかし、だからこそなのでしょう。
クダリはわたくしと違い、非常に出来が良いのです。要領も良く頭の回転も早い。
それに加えて愛想も良く、部下からも慕われております。
ええ、そうでございますね、サボり癖はございますがわたくしの自慢の片割れです。
それに比べてわたくしは愛想が悪いうえに要領も良くない。
部下からは怖いと言われたり、迷惑をかけたりと、いつも仏頂面で子供のお客様には泣かれてしまう。
はっきりと言ってしまえばわたくしはクダリが羨ましい、いえきっと妬ましいのでしょう。同じ遺伝子でありながらここまで違うクダリが羨ましくて仕方がないのです。
ですがなによりこんなこと考えてしまうわたくしが一番嫌なのです。
愛想が悪いのも要領の悪さも自らの性格もぐじぐじと悩むだけ悩み行動も起こさず、挙げ句クダリを妬ましいと考えてしまうわたくし自身が嫌なのです。
こっちか!!私が「知らない人間に話してみれば気持ちだけでも軽くなるんじゃないですか」なんて適当なこと言ったんだけどね!!
切実に重い悩みに私のハートが押し潰されそうだ。
そりゃあ、こんな悩み抱えるノボリさんはいっぱい見てきたよ、主にピクシブとかでね!!
画面の奥で悩んでもらう限りはクダリさんに劣等感感じちゃうノボリさんhshsなんだけど、リアルで悩まれてるのを聞かされ、ガチで沈んでるノボリさんを前に私はどうすればいいんだろう。
とりあえず私はベッドの淵にゲームの中ボスの待ってましたよ的なポーズみたいな座り方をしているノボリさんの隣に座る。
そんな賢者タイムみたいな座り方のノボリさんを真っ正面から見てたら、いつ吹き出さないかドキドキしすぎて、人生相談モドキができるか。
あ駄目だ、隣に座ったら別の意味でドキドキする。ですよねー、私ってばサブマス大好きだもんねーノボリさんの隣になんか座ったらドキドキぐらいするよねー。
どうしよ、かと言って他の場所に座り直せそうにないし、1分くらい前の私殴りたい、頼む死んでくれ。
私が沈黙しているからか、痺れをきらしたのか、もしくは諦めたのか、気をつかったのか、ノボリさんが口を開いた。
「……すみません」
「え?」
「こんな話されても困りますよね」
もう寝ますね、と言ってベッドに入ろうとするノボリさんの手を掴む。というか、そのベッドは私のだ。
「あ、あのなまえ様?」
「えっと、」
さあどうする俺ぇ!!みたいな古いCM的テンションの私。
「……知ったような口をきくなって思うかもしれませんけど、わ、私はノボリさんのこと凄いと思いますよ」
そのままもう片方の手をノボリさんの手を掴む手に重ねる。
「こんなガキが何をと思うでしょうけど、でも、ノボリさん。あなたはあなたが思うほど駄目な人間じゃない。
もし仮にクダリさんの方が人に好かれる性格でめちゃくちゃ要領が良くても、その分ノボリさんは努力してるし、人にも好かれてる。そんな言い方クダリさんやノボリさんのこと好きな人や尊敬してくれてる人に失礼です」
言っちゃったー、言っちゃったわー。うわー、引くわーなに私死ぬの。
言った後の後悔で既に私は内心のたうち回って「ぐああああ」みたいな感じなのだが、なんだかおかしいよ、ノボリ兄さん!!
ノボリさんのさっきまでのハイライトの入ってない俗にいうレイプ目とやらが輝いてた。きらきらと、まるで少女漫画の主人公のような、恋に恋する乙女のような輝き。
「あ、あ、」
彼から壊れたラジオのように切れ切れででてくる声。
「ノボリさん?」
「あ、ありがとうございます」
某動画、絵、もっとわかりやすくいえば天使な彼の弟のような笑顔とは言い難い、ぎこちないノボリさんの笑顔。
それはもう、無理に表情筋を動かしているのだろう口角が少し、ほんの少し上がっただけの笑顔。
かわいいとは思ってない。だって推定三十路の男のあり得ないくらいぎこちない笑顔に可愛いなんて思うほど私の目は悪くない。いくらノボリさんマジ性的とか画面に向かって叫ぶ私でも、あれはつまり美化された彼らに対してだ。(ほら初代主人公とか良い例だ。)
でもとっさにも何か、そう母性のような、曖昧でどうしようもないような感情を、最近ベッドを乗っ取られイラッときていたことなんて許してしまえる程度の感情を感じてしまったのだ。