山なし落ちなし、意味深長


品行方正、清廉潔白、厳格な我らがボス、ノボリさん。いや、クダリさんも十二分素晴らしいのだが、そこはまた今度にしよう。
どこをどう間違ったか知らないが、一介の鉄道員である私がなぜかそのノボリさんとお付き合いする羽目になったのだ。
すらりと伸びた足を黒いコートで隠しても、その姿はそこらへんの女の人より余程お綺麗で。背筋を伸ばし、肩で風を切るように凛としていて、私なんかと釣り合わないのは一目瞭然。
しかしまあ、私としては劣等感と嬉しさの板挟みではあるものの、本当に付き合っているかどうかは微妙なとこである。広まってもいないし、特別なことは何もなし。
つまりあれだ、女避け。告白されたら、ある方と付き合ってますのでって言えばいいし、事実さえあれば嘘ではない。
一番ありそうなその理由に自分なりに納得する。でも先にそう言ってくれたら、大切な我らがボスのためならしたんだけどなあ。
ああ、でも真面目なボスにはそんなことできないか。
最近同じことに悩んではこの答えに行きついて、自分のルックスにため息を吐いているわけなんだけど。


「あ、ボス」
「なまえ、どうかしましたか?」
ボスは私の方を振り向く。そんなボスに駆け寄って、書類を渡そうとする。
「これ、書類なんですけど」
「ああ、はい。お預かりします」
私から普通に書類を受け取ったボスが確認をする。ほらね、甘い雰囲気なんて全くなし、0だよゼロ!
「結構、もうよろしいですよ」
「はーい」
「ちゃんと返事なさい」
「イエス、ボス」
「全く」
茶化すように敬礼をすれば、呆れたような笑い混じりのため息が頭上から降ってくる。次の乗車に合わせてポケモン達のモンスターボールを取りに戻ろうとすれば、ノボリさんに呼び止められる。
「ああ、なまえ」
「はい、なんですか」
「休憩室にいかりまんじゅうがあります」
「え!?」
「今日のお茶請けらしいですが、好物じゃなかったですか?」
「はい、うわあ帰ってきたら頂きます!」
「クラウドやジャッキーが休憩に入ってますから、全部食べられてしまうかもしれませんね」
「なんでそんなこと言っちゃうんですかあああ、言わなければ名残惜しくなかったのに!」
「一人ひとつぐらいの量でしたし」
からかうようなボスの声を背中に私は仕方なくいかりまんじゅうを諦めて、ボールを取りに戻った。


「やっぱりか」
空になったお皿を睨み付けながら、クラウドさん達に直談判する。
「一つくらい残しておいてくれたっていいじゃないですかー!!」
「違ウヨ、残シテオコウカ迷ッテタケド」
「ボスが持ってったんや、仕方ないやろ」
「ボスが?」
ボスなんてことを!!さっき私にあんなことを言って止めを刺して、何がしたいんだと泣きたくなってしまう。
「これが欲しかったのですか?」
後ろから声を掛けられて振り向けば、二つのいかりまんじゅう……ではなくボスが立っていた。
「どうぞ」
私にまんじゅうを渡したノボリさん。
「あ、ありがとうございます!」
「ズルイ、二つモラッテル!」
「わたくしの分でございます」
「え、それはだめですよ!」
惜しみながらも返そうとすれば、ボスがいいですよ、と言ってくる。
「でも!」
「先ほどのバトルは素晴らしかったです、ご褒美です」
「なんやそりゃ、わいらもトレイン乗ればよかったわ」
「だめですよ、私が全部もらうんで」
優しい上司(恋人)と同僚に囲まれて私は幸せだね、っていかりまんじゅうにかじりついた。


それなのに!
「なんでこんなことに」
帰宅のためにギアステーションを出た私をさっきのお客様がお友達と取り囲んでいた。
「なんで、ってお前が邪魔しなければ連勝できてたのによお」
柄の悪そうなお兄さんだとは思ってたけどね。そんなこと言われたって、只のシングルで勝ち抜けないようなのでしかも、あの程度の実力でよく私のとこに辿り着いたって感じなのにねぇ。
まあリアルファイトは全くできない私はあっさり捕まってしまったのだけど。
「なんだよ、その顔はよぉ!」
「お前の顔が近くて唾が散ってんだよ」
「いや、散ってませんよぎりぎり」と茶化すお友達さんに心のなかで言うが、まあこんな小娘捕まえて良い気になってるらしいこの人達はわはははと品のない声で笑う。
「なまえ」
唐突に凛とした私の名前を呼ぶ声に一瞬ドキッとした。声の持ち主であるノボリさんが私の方を見ている。
「こんなところにいらっしゃいましたか」
安心したようなノボリさんはまるでお客様なんて見えないみたいな声と表情で、違和感がでてくる。
「あっれーお偉いサブウェイマスターさんじゃないっすか」
「探しましたよ」
へへへっとまあにたにたした顔で威嚇のつもりらしいが、本当に聞こえてないみたいにノボリさんが私にだけ話しかける。
「おい、お前!」
そんな態度に苛立ったのか、友人その5みたいな人がボスの腕を掴む。
おいちょっと待て!そんな汚い手でボスに触るな!!

ちぃ!!

すごい舌打ちが聞こえた。
どこからかと、聞こえた方を見上げればノボリさん。
……品性どこいった。
ノボリさんは呆気に取られたチンピラを虫、いや生ゴミでも見るような見下した目で一瞥すると同じく呆気にとられていた私の手を取ると、引きずるようにその場を後にした。


「……」
「……」
ボスは何も言わず穏やかな表情で私を見下ろしている。
「ぼす?」
「……」
「あ……ぅ、と」
どうしようか、ボス怒ってる?
「ノボリ、とお呼びくださいまし」
「……あい」
おずおずと頷けば、私の頬にノボリさんの手を当てられる。
「わたくし達の仲でしょう」
「の、ノボ、ノボリさん」
「なまえは恥ずかしがり屋さんですねぇ。ノボリでよろしいですよ」
「の、のぼ」
「まったく、なまえはいけない子ですね」
そぉと頭を抱えられる。脳みそが追いつきそうにないのですが。
H25.05.22

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