生きてます。
2013/06/16 20:37
「今日は父の日ですね」
庭の紫陽花を見ながら沖田はそう呟いた。
手に握っている携帯の画面が、メールの受信を彼に知らせて静かに黒くなっていく。
「よく覚えてたな」
「先生がさっき教えてくれたんです、メールで」
だるそうに伸びをしながら、何を渡そうかと沖田は思考を巡らせている。
つけっぱなしのテレビからも、女性のか細い声で父に贈り物を云々宣伝していた。
面倒だと土方はため息をついた。
父親がいない土方にとって父の日は面倒以外の何物でもない。
沖田の話を延々と聞くのも、同じ話題で埋め尽くされるニュースを聞くのも、退屈で仕方がない。
「土方さんは何かするんですか?」
「何かする父親がいねぇよ」
「違いますよ!」
沖田はいつもの調子でむっと頬を膨らませた。
「父親代わりの人とかいないんですか?ほら、彦五郎さんとか」
「あれは義兄さんだよ」
「あ、そっか…じゃあ誰なんですか?父親代わり」
沖田に言われなくとも、土方には父親代わりと言える人が分かっていた。
実兄の為次郎だ。
目の不自由がありながらも、両親を亡くした幼い自分を育ててくれた人である。
「で、いないんですか?」
「さぁな、どうだか」
薄っすらと笑みを浮かべた土方は、文句を垂れる沖田を横目に、携帯を持って部屋を出た。
携帯の画面が通話を知らせている。
「もしもし、兄さん?」
画面越しの声に、ふっと顔が綻んだ。
「今日、泊まっていくから」
土方さんの兄の為次郎さんは盲目でした。
でも、現パロでは目が不自由ということで多少は見えている設定にしてます。
でも顔をはっきり認識できるほどの視力はないです。
いつもは彦五郎さん家住まいの、たまに本家、みたいな。
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