紗親子。
2012/09/24 01:13
「香梅」
縁側で涼んでいた彼女に、劉国は声をかけた。
「まだお仕事の時間でしょう、いいのですか?」
「あぁ、次の仕事は半刻後だからな」
「あら、そうでしたか」
香梅はふわりと笑い、自身の腹を撫でる。
もう臨月を迎えようとしている腹は、だいぶ大きくなっていた。
性別は男だと言う。
初めてにして待望の後継ぎである。
国全体が祝福してくれたのだ、裏切るわけにはいかない。
「して、香梅。こやつの名はどうするのだ?」
「そうですね…」
劉国は、楽しそうに考え込む香梅の肩を抱き寄せた。
彼女の柔らかい髪が風に揺れ、少しばかりくすぐったい。
「光に満ちた明るい澄んだ陽の気が、上昇して天となりました…ご存知でしょう?」
「重く濁った暗黒の陰の気が、下降して地となった…だろう?」
陰陽五行説。
陰陽は互いが存在することにより、初めて成立する。
そしてそれは善悪ではない。
もう一度、ゆっくりと腹を撫でる。
時々動いているのがどうしようもなく嬉しかった。
「地を踏み締め道を違わず、天に昇る龍のように、ひたむきに生きていく子―…、」
陰陽の両方を併せ持つように。
真っ直ぐに、素直に生きていくように。
「陰龍」
「陰龍…紗陰龍、か。いい名だ」
劉国は香梅と息子、陰龍を抱きしめた。
無事に生まれてきますように。
我が子をこの手で抱きしめたい。
我が子の成長を見守りたい。
願わくば、陰龍の幸せを。
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