年内の仕事も片付き、ほっと一息ついたところで意識が途切れた。起きると時計の針はすっかり進み、日付が変わって一時間ほど経ったところだった。携帯を見ると連絡が二件。一件は弟から帰省についての連絡、もうひとつは明日、ではなくもう今日になった年内最後の約束についてだった。

そういえば、明日履くつもりだったスニーカーが汚れていた事を思い出す。しっかり目が覚めてしまった今、もう一度眠る気にもならず。玄関へ向かう。ひんやりとした床に座り、綺麗に並ぶスニーカーを手に取った。
お気に入りの物、彼女がくれた揃いの物。色とりどりのスニーカー達。お気に入りのスニーカーは随分とくたびれてきたが、それもまた味になっているように感じる。
手に取り汚れやスレを確認する。ふと裏返すと、靴底には沢山の土と乾いた草が詰まってた。こんな物が詰まるようなところを歩いた記憶がなく、最後にこの靴を履いた日を思い出そうとするが出てこない。
掃除をしていれば思い出すかと、靴箱から手入れセットを取り出す。小さなブラシで土を落としていく。ぽろぽろと乾いた土が玄関へと落ちていく様を見ていると、数ヶ月前に彼女と行った旅先で土手沿いを歩いた事を思い出した。

「ああ、あの時の」

思わず声が出た。付き合って3年程になる彼女とは、毎年長期休みは旅行をしようと約束していた。だけど今年はそれを守れず、この靴を履いて行った旅行一度きりとなってしまっていた。

今年は初めて担任を持って、なにかと忙しい一年だった。旅行が一度しか出来なかったこともそうだし、彼女には何かと寂しい思いをさせてしまったように思う。教師という職業に理解があり、物分かりの良いことを言ってくれる彼女に甘えてばかりいたが、内心寂しくなかっただろうと思う。現に、共通の友人からは彼女が寂しがっているという話も聞いてしまった。

来年はもう少し勝手が掴めて、余裕がでてくるだろう。そうしたら年2回と決めた旅行をもっと増やす事だってできるだろうし、彼女との時間をもっと楽しめるだろうと思う。それに、来年はもっともっと、彼女と一緒に過ごす時間が増えるのだ。それは。

〜♪

携帯の着信音が響く。
浮かび上がるのは想っていた彼女の名前だった。

「もしもし」
『もしもし?起きてた?』
「ああ。こんな遅くにどうしたんだ?」
『ちょうど明日のこと送ろうと思ったら既読になったから、電話しちゃった』

大丈夫だった?とこちらを伺う彼女の声。そんなことは全くないと答えると、安心したように笑った。

「今、ちょうど君の事を考えていたんだ」
『えっ?!私のこと?』
「ああ、今年は寂しい思いをさせたなと思ってな」
『そんなこと気にしなくっていいのに』
「来年はもっと沢山一緒にいよう。旅行ももっと、沢山できようにする」
『じゃあお金貯めなきゃね』

彼女の声は弾んでいる。笑っている姿が目に浮かぶ。

「来年は夫婦として、よろしく頼む」
『こちらこそ。今年は恋人として最後の年末だね』
「ああ。明日は思いっきり楽しもう」
『いいね!独身最後に贅沢しちゃおっか!』

何がそんなの楽しいのか、二人して笑っていた。だけど二人でいるだけで、何がなくても楽しいのだ。


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