夕飯の支度時、味噌汁を作るのに湯を沸かしていると珍しく任務が早く終わった杏寿郎さんが帰ってきた。
暖簾をくぐって台所に来たと思えば、腕まくりをした。

「俺も手伝おう!」
「じゃあお味噌汁に豆腐入れてくれる?」
「ああ分かった」

珍しい事もあるものだ。ならばと、水の中で静かに佇むそれを鍋に入れるように頼むと意気揚々と椀の中に手を突っ込んだ。そんな勢いよく入れたら豆腐が割れてしまわないかと思ったのもつかの間。
グシャア!普通にしていればするはずのない音がした。驚いて隣を見れば、音を立てた本人が唖然としていた。手の中には砕かれたお豆腐…だったものだと思う。

「え?」
「すまない、豆腐が暴れてしまった」
「は?」
「……嘘だ」

嘘にもほどがある。あまりにもひどい嘘に私は言葉を失った。
あんまりにも酷すぎて、豆腐の事は不問にしてあげた方がいいのかと思うくらいだ。

「兄上!何をしているんですか!」

そんな所に帰ってきた千寿郎くん。私達を見るなり珍しく千寿郎君は怒っていた。豆腐を砕いただけなのに。小さな体を怒りで震わせるくらいに怒っている。もう一度言っておくが、杏寿郎さんは豆腐を砕いただけなのに、だ。

「台所には入らないようにって、何回も言いましたよね!」
「せ、千寿郎これは」
「僕が居ないからってどうして言いつけを破るんですか!」
「千寿郎くん、まあまあ」
「すず乃さんもどうして入れちゃうんですか!こうなるって分かってたでしょう?!ほら兄上!もう一度買ってきてください!」

唖然とした私とは違い千寿郎くんは砕けた豆腐を許すことはせず、杏寿郎さんを豆腐屋へと走らせた。まるで犯罪者のような言い方で杏寿郎さんには申し訳ないが、私が知らない間に、きっと沢山の前科があるに違いない。
しかし、プリプリと怒る千寿郎くんとは対照的に、台所を出る杏寿郎さんの背中に哀愁が漂っていてなんだか面白かった。


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