軽やかな音が聞こえ、音の主はてっきり兄の方かと思えばそこには思っていたよりもずっと小さな背中。楽しそうに横に揺れながら奏でるは、最近よくラジオから聞こえる流行りの音楽だ。

「お。千くん口笛?」
「すず乃さん」
「上手いね。てっきり煉獄が吹いてるのかと思ったよ」

兄である煉獄杏寿郎が口笛を吹いているところは見た事がなかったが、なんでもそつなくこなし、できないものは努力で手に入れる彼の事だから吹けるだろうと勝手に思った。

「いえ、兄上は」
「ん?」

ぴゅう、と自分の唇から音が流れた。小さな彼が出すそれよりかは幾分低いがなかなかの音量だった。

「すず乃さんもお上手ですね」
「父が好きでね、よく自転車の後ろに乗りながら一緒に吹いたものよ」
「素敵な思い出ですね」

顔を見合わせると、示し合わせたように先程と同じメロディを二人で奏でた。それは楽器のように上手ではないけれど、とても充実していた。
ひとしきり吹いたところで、煉獄がこちらを見ている事に気が付いた。千くんも口笛を吹くことに夢中で気が付いていなかったらしい。

「二人でばかりずるいぞ」

珍しく小さな子供のような口ぶりだった。二十歳を過ぎている青年が、悔しかろうと自分も混ざるべく口を尖らせ息を吐く。

ふっ、ふーっ、ふぃ

無駄にある肺活量から吐き出される呼吸音だけが空しく響く。
顔を真っ赤にした煉獄になんて声をかけるべきか悩んでいると。

「兄上は、口笛が吹けないんですよ」

千くんが私に耳打ちをした。


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