今にも鼻歌を歌い出しそうなくらい軽い足取りで廊下を歩いていると、職員室から帰ってきた東月を見つけた。
手を挙げて彼の名前を呼ぼうとしたら、後ろから違う声に遮られてしまった。

「三宮!見つけたぞこのやろう!」
「げっ」

声の方へ振り向くと、七海が私を見て睨みをきかせているではないか。あら、到着が随分早い事。
後ろに居る七海がどんどんと近寄ってくる。私は目の前に居る東月の後ろに素早く逃げ込んだ。

「錫也ぁ!後ろの小娘を出せ!」
「小娘っ……同い年だろ」
「そうだそうだー!」
「うっせ!良いから三宮をこっちに寄越せ!」

東月の後ろから七海を弄るのは実に楽しい事だ。なんせ奴はなかなか東月に頭が上がらないのだから。それに東月は女の子に頗る優しいので、私を差し出すような事は絶対にないのだ。

「ちなみに、今日は三宮が何したんだ?」
「私はちょーっと七海のヤキソバパンを貰っただけだよ」
「何がちょーっとだ!半分も!しかもヤキソバ目一杯とってきやがって!」
「あ、気付いてた?」

ケラケラと笑うと七海が口許を引き攣らせた。それを見た東月は、やれやれと溜め息らしくない溜め息を吐いた。溜め息らしくないというのは、困ったように笑顔をつくっているが実際には全く困ってなどいなく、いつもの事のように彼は七海に声をかけた。

「まあまあ、三宮も悪気があった訳じゃないだろうし許してやったら?」
「そうだそうだー!か弱い女子なんだから許してあげなよー!」
「どこがだよ!!」
「俺の弁当少し分けてやるから。それでどうだ?」
「うっ、錫也の弁当………分かった。三宮!今日は運が良かったな!」

覚えてろよ!とどこかの悪者みたいな台詞を残して七海は教室へとUターンしていった。それを一緒に見送った東月は、七海が教室に入ったのを確認すると私の頭を優しく小突く。

「全くお前は……また哉太のパン食べたのか?」
「半分だけだよ!それに、ヤキソバパンさんが私に食べて欲しいってこっち見てたし」
「はいはい、屁理屈は言わない」

背が低い私に合わすように少し屈んだ東月は、いつものように優しく笑った。釣られて笑顔になると、彼は私の頭を軽く撫でてくれた。

「さて、時間もギリギリだし教室に戻るか」
「うん!」
「あれ?三宮はどこかに行くんじゃなかったのか?」
「ああ、そのつもりだったんだけどもう良いや」

七海の一件は片付いたしね。私はその言葉を飲み込んで東月に笑いかけた。すると、彼は何かを思い出したように手を叩く。

「そうだ。食いしん坊の三宮にはこれをあげよう」
「え!なになにー?」

手を差し出すと、そこに乗せられたのは綺麗に包まれたマフィンだった。東月は料理がとても上手なのだ。きっとこのお菓子も凄く凄く美味しいに違いない。私は東月の作る料理やお菓子が大好き!

「ありがとう東月!大事に食べるね!」
「喜んでもらえたなら良かったよ。じゃあ教室に戻ろう」
「うん!」

貰ったお菓子を落とさないようにしっかりと手に持って、東月と一緒に教室まで戻る。
教室に帰ると、七海が東月のお弁当を心待ちにしていた。そして私の手にあるマフィンを見て「ずりー」だの「三宮や月子にはよー」などと文句を垂れていた。
それを聞いた私と東月と月子は揃って笑ったのだった。
やっぱり今日は良い日だなあ!


笑う渦の中に


(20111022)


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