部員が皆帰宅して静まり返った部室で一人外を見ていた。何故一人で居るのかといえば、部室の鍵を持ったままどこかに消えた白銀先輩を待つ為だ。じゃんけんで負けた私は一人お留守番という訳。
いつになったら帰ってくるのか、いや、もしかしたら帰ってこないかもしれない先輩を待つのは骨が折れる。でも、夕日に照らされながら意味もなくカメラを構えるのはいい気持ちだ。
部活に入ってからすぐに買ったコンデジのファインダー越しに景色を見ていると、その先に一人の少年の姿を見つけた。それがよく知っている人物だったから、先輩を待っていなきゃいけないのに部室をそのままにして駆け出した。

「お邪魔しまーす」

座っている少年と背中合わせになる様に腰を下ろす。彼は特に何も言わずに空を見上げていた。同じように空を仰ぐと、さっきまで橙色しかなかった空に少しずつ藍色が侵食し始めている。夜になるのも後少しの証拠。
綺麗なグラデーションだと思ってシャッターを切る。カシャ、と無機質な音が響いてすぐに消えた。グラウンドには運動部の人たちが片付けを始める姿が見える。近くにいるのにとても遠くに感じる位、私と彼の空間は孤立していた。
背中の後ろに居る少年、木ノ瀬梓くんは私が来ても特に何も話はしなかった。別にそれでも良いと思ったのでこちらも執拗に話はしない事にしておこう。でもずっと無言は寂しいからやっぱり話はしちゃうんだろうけど。

思えば、彼と私は同じクラスでもそんなに多くの会話をする方ではない。仲が悪いとかではなくタイミングが合わないのだ。私は新聞部、彼は学園でも珍しく活発な弓道部に入っている。
放課後はお互いすぐに部活に行ってしまうし、クラスの席もこれといって近くないし。それに実験とかあっても彼は従兄弟の天羽くんと組むから一緒にやらないし。あ、こう思うと接点少ないな。
でも、私は彼の事をとても気に入っている。良い被写体としても、友人としても。クラスでは話さなくても弓道場や外で会った時はよく話す。新聞部の活動で写真をよく撮る所から私たちは仲良くなったのだ。
天羽くんも同じで、新聞部部長の白銀先輩がらみで生徒会室に出這入りするおかげで警戒心が解けたようだった。そのおかげか、クラスで仲の良い人物を上げると自然と木ノ瀬くんと天羽くんになる。

私がそんな事を考えている間も木ノ瀬くんは空を見上げていた。同じように空を見ているけど隙があれば彼の横顔を盗み見している。だって木ノ瀬くんの顔って凄く綺麗なんだ。
初めてみた時も女の子かと思う位に綺麗で細いし。それを言うと怒られるから本人には決して言わないけど。でも、実習とか見ているとやっぱり男の子で、なんだか不思議な感じ。

「そういえば、三宮はなんでこんな時間まで学校に居るの?」
「鍵を持ったまま白銀部長が行方不明で……じゃんけんに負けた私がお留守番を仰せつかったのだよ」
「ああ、要はバツゲーム?」
「うっ。それは言わないで、虚しくなる」
「ごめんごめん」

笑った様子を見ると謝る気はないみたいだ。不満を訴えるよう彼の肩を小突く。彼はまた笑って「暴力は良くないよ」とあたかも正論を言ってきたが聞かなかった事にして知らんぷりしてやった。
それから一通り仕返しをした後、地面に腕を戻そうとした時ふと何かに手が触れた。それは木ノ瀬くんの手だったのだけど、一瞬なにに触れたのかわからない位に冷え切っていて、思わずその手を握り締めてしまった。
握ってから、自分は何してるんだろうと思ったけど、握られた張本人は何も気にしてない様子。逆に気にしている私が馬鹿みたいに思えたから、そのまま言葉を続ける。

「木ノ瀬くんの手、冷たくない?」
「三宮が温かいんじゃないの?」
「そうかな?それにしても冷たすぎ」

重なった掌をもう一度ぎゅっと握るとその冷たさが伝わってくるようだった。こんなに冷え切るほど外に居たのだろうか。そう考えたところで、ふと今は何時だろうと腕に巻いてある時計を見ると、予想外の時間を刺していて驚いた。
本当にそんなに時間が経ったのかとグラウンドを見ると、さっきまで居たはずの運動部の生徒たちは誰一人として居なくなっていた。静まり返ったグラウンドを見て、木ノ瀬くんと私は顔を見合わせ芝生の上から立ちあがった。

「よし、寒くもなってきたし帰ろっか」
「白銀先輩はもう良いの?」
「……もう諦めた。あの人なら勝手に部室に戻って戸締りしてくれると信じてる」
「三宮のそういう適当な所、嫌いじゃないよ」

さり気なく手を取って歩き始めた木ノ瀬くんはそう言って笑った。笑った顔もやっぱり綺麗だな、なんて思いながらさっきの言葉に意味はあるのだろうかと考えていた。
いやいや、きっと意味は無くてただ流れで出ただけの言葉なのだろう。でも、期待をするななんて酷な話で。・・・ああもう!訳が分からなくなってきた。
結局その後、繋がれたままの手を見つめながらこれは良いように考えても良いんじゃないかという結論に行きつくのだけど、それよりも部室に鞄を忘れた事を後悔するべきだろうか。


無自覚リアリスト


(20111108)


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