ガヤガヤというには少し物足りないくらいのうるささを兼ね備えたこの部屋は今は無敵と言えるだろう。例え隣の部屋の住人が五月蝿いと文句を言ってきた所で、その住人は何も言えずに帰っていくに違いない。
ガシャーン!とまた派手な音が出た。ここにある皿を何枚割れば気が済むのだろう。明日の朝にはもう使えるお皿が残っていないかもしれない。紙皿を寒い中買いに行くことも検討しておこう。

「何ぼーっとしてんだ!お前も手伝え!ってか準備しろ!」
「ああ、はいはい」

潮江文次郎からお小言が飛んできた。ちょっと部屋の中を見渡しながらお茶をすすっていただけなのに手厳しい限り。台所に立つ中在家長次の横へ行くと無言でピーラーを渡された。ざるに入った皮付きの野菜たちが私を見ているのでこれを剥けという事だろう。
手始めに大根の皮を剥いていると今度は部屋の中から雄叫びのようななんとも言えない声が聞こえてきた。どうやら声の主は善法寺伊作のようだ。皿を割りまくってもうちょっとやそっとの事では動じなくなったのでそのまま大根を剥いていると雑巾を寄越せと声が飛んでくる。
すぐに中在家が雑巾を投げてくれたが、その雑巾にまさかのアタックをかます七松小平太。無残にもカーペットの上にべちゃりと着地する雑巾。それを見た食満留三郎は小平太を怒って善法寺にこっちに来いと声をかけた。
台所にさっき渡した雑巾と善法寺伊作を連れてきた食満。私は善法寺の姿を見て思わず悲鳴に近い声を上げる。なんと、彼はこれから行うはずの鍋に使う、土鍋を頭にかぶっているではないか。そこには七松がまだ開けないでといったのに開けてしまったダシが入れてあったのだが、まさかのそれを頭からかぶったようで洋服も濡れていた。
ちなみにまだ火をつける前だったので、彼は冷たいダシを浴びる事となった。アツアツよりかはましだろう。あと、昆布だしだったのでそんなに匂いはしなかった。半ベソをかく善法寺をお風呂場へ連れて行く食満の姿はなんだか介護疲れをしているご老人のようであった。

「……三宮」
「なに?中在家」

哀愁染みた顔で食満を見ていると主夫中在家が私の肩を叩いた。振り向くと手には昆布。さっき善法寺が零したせいで無くなったダシを取れという事らしい。ダシの取り方がよく分からないが、不運小僧から回収した土鍋を一度洗い、水を張って昆布を突っ込んでおいた。
涼しい顔をしてテレビを見ている立花仙蔵に今度はダシを零さないよう見張り番を頼みまた台所へ戻る。さっきまで私が担当していた皮むきの仕事は既に終わっており、既に片付けの体勢に入っている。申し訳ない。
何かする事はあるかと聞くと切った材料を鍋に入れる仕事を任された。サーイエッサー!とどこか古い合図を残し私は鍋の元へと向かう。お腹が空いて凶暴化してきた七松が手に持っていたお肉と野菜を見るなり襲いかかってきたが、そこは潮江文次郎が止めてくれた。たまにはこいつも役に立つもんだ。

「腹が減って死にそうだ!!!」
「来る前にラーメンを食べてきた人が言っていい言葉ではありません」
「でも腹減った!!」

そろそろ本当に七松がうるさくなってきた。土鍋にぽんぽんと具材を詰め込みながらどうしようものか考えているとお風呂場からまた叫び声のようなものが聞こえてきた。具材投入を潮江に託しお風呂場へ直行すると善法寺がぶるぶると震えながらバスタオルにくるまっていた。
どうやら悲鳴の主は善法寺ではなく食満留三郎のようだ。どうやら最後にちゃんと蛇口が閉まっているか確認しようとした所、逆に捻って頭から冷水を浴びたらしい。この人たち本当に大丈夫なのだろうかと心配になったがまあいいや。バスタオルを渡してそそくさと部屋へ戻る。
こたつの周りには風呂場で騒いでいた不運小僧たち以外みんな着席しており、主夫ももうエプロンを外して鍋の様子をうかがっていた。私がお風呂場で油を売っている間に七松辺りを使ってお皿を並べたらしく綺麗に陳列され、後は鍋が煮えるのを待つのみとなっている。

「おいしそー」
「つまみ食いはするなよ」
「潮江じゃないからそんな事しません」
「へいへい」

潮江も随分とスルースキルがついたものだ。今までだったらここで「なんだと?!」とか言って怒って面白かったのに。こういう所は立花と意見が合う。最近おもしろくなくてな、と小言を漏らした時は全くだと思ったものだ。
いつの間にか消されていたテレビをつけると、お笑い芸人やら有名なアイドル達が各局で盛り上がっている様子だ。もう良い時間だもんな、と壁に掛けてある時計を見て思う。そういえば、携帯はどこに行ったのだろうと探したが見つからないのであきらめた。この後、私の携帯は七松のお尻の下から発見される事となる。ちなみに発見されたキッカケは携帯のバイブが鳴った事で、七松のお尻が振動した事である。
お鍋が良い具合に煮えてきた。脱衣所でぐだぐだしている二人を呼んでこたつの周りに集合させる。これでやっと全員そろった。二人はバスタオルを被って寒そうにしているがまあ問題はないだろう。こたつに足を入れるとなんだか男の足ばかりでむさくるしい。まあここは我慢して飲み物を持つ。

「はい皆、飲み物持った?」
「おう」
「持ったぞ」
「ちょっと待って、僕のがない!」
「伊作は何やっても駄目だなー!」
「……コップ」
「あ、やべ!もう時間ねぇーじゃん!」
「ちょ!ちょっと待って!ねぇ!僕のジュ」

ジュース!と言いかけた所でテレビからひときわ大きな声。



明けまして!



「はいはい、明けましておめでと不運」
「何それ!そんなの流行らないからね!」
「まあまあ良いじゃん!今年もよろしくね!」

不満そうな善法寺を皆で笑ったのが、今年の初笑いでした。


(20120107)


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