あの日、僕の生は終わりを告げた。
君の生も、あの時の僕と同じように終わり告げたのだろか。
幸せな一生を遂げれたら良かったのだけれど。





夢から醒めない夢





目を開けると僕は新たな生を受けていた。
あの日から一体どれほどの月日、いや年月が経っているのだろう。
そんな事をこの時代に生を受けてから何度となく思ったものだ。

21世紀、今の世の中は昔の世界とは180度違っていた。
大きな塊が道を走り、南蛮ファッションのようなものを揃いも揃って着ている。
小さな頃からそんな疑問を抱いて生きていた僕は、年を追うごとに昔の記憶が鮮明になっていった。

室町時代末期。
教科書の年号で調べると、昔の僕が生を受けたのはそんな時代であった。
忍者という者になる為に学園に通った毎日。
親の愛よりも、学園で打ちとけ合った仲間との愛を育んだ毎日だった。
そんな僕に、本物の愛を教えてくれたのは君だ。
家族でも仲間でもない。彼女はただ一人の存在だった。

初めて愛を知った。

だから、この世と分かれるその刹那。想ったのは君の事だったよ。
なずな。なずな。なずな。
君は今どこで生を受けているんだい?僕はここに居るよ。早く君を見つけたいよ。
もう一度声が聞きたい、笑顔が見たい、抱きしめたい。


「おはよー!」
「勘ちゃんおはよう」
「アレ?雷蔵だけ?」
「三郎は遅刻だって」
「おほー。アイツもクラス替えの日によくやるよな」
「はっちゃん」
「おはよ」


昔の旧友、尾浜勘右衛門と竹谷八左ヱ門が席に着く
今の僕たちは普通の高校生だ。でも、仲間は自然と集まってきた。
同じ顔をしていた三郎も、真面目な兵助も、笑顔を忘れない勘右衛門も、はつらつとした八左ヱ門も。
だけど、彼女だけ。彼女だけがやってこない。


「結局三年間同じクラスだな」
「昔みたいにバラバラよりかは良い」
「確かにそうだね」


黙っていた兵助と勘右衛門が話を始めた。
はっちゃんも混ざっているみたいだけど、僕はひたすら教室のドアに視線を注いだ。
もしかしたら、彼女が入ってくるかもしれない。
大きな高校だから、会った事がないだけかもしれないじゃないか。
そう信じてドアを見ていると、はっちゃん程ではないが大きな声が聞こえる。
聞いた事のない声。入ってくるのは少し髪が長めの少年。一瞬、目が合った。


「あっ」
「ん?雷蔵どうした?」
「いや……なんでも、ない」
「?そう。なら良いけど」


驚いた僕の声に皆が声をかけてきたけれど、入ってきた少年に目は繋ぎとめられたままだった。
あの目は間違いない。あの顔は間違いない。僕は彼を知っている。
嫌でも知っている。知っている。見た事がある。その昔に。


「ちょっとごめんな!」


八左ヱ門の横を通った少年は、開いていた僕の隣に腰を下ろした。
黒板に書いてある不破の隣の三宮は彼なんだろう。どうして気がつかなかった。
同じ名字なのに。当り前だ。僕は女の子の名前しか見ていなかったのだから。


「お前が不破?」
「う、うん」


兵助も勘右衛門も八左ヱ門も気が付いていない。
気が付いているのは僕だけだ。もしかしたら、三郎だったら分かっていたかな。


「よろしくな!」
「………うん、よろしく、」


無造作に出された手は少年そのものだった。
それを握り返すと、心臓はぎゅっと締めつけられていく。
無邪気に笑う彼の笑顔が辛い。僕はキチンと笑えているのだろうか。


「あ、呼ばれてる!またHRで!」


そう言って廊下へ走っていく彼の背中。昔に見た男装と同じだ。
やっぱり彼は彼女なんだ。ああ、どうしてなんだろう。
僕は男として生を受けたのに。彼女はどうして男として生を受けたんだ。
それなら僕が女として生を受けたいよ。神様はどうしていつも不公平なんだ。

机に突っ伏すと目の前が真っ暗になった。
更に暗闇を求める為にそのまま目を瞑る。
こうやって記憶の扉を閉ざせればいいのに。

さあ、僕は眠りにつこう。
どうかこれが悪い夢でありますように。




(20110214)


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