いきなりだが、私と七海哉太について説明をしておこう。
まずは私、三宮なずなは星月学園二年生で天文科の女子第二号である。
身長容姿はまあまあ普通、性格も多少面倒くさがりな所を除けば問題はない(と思いたい)。
女子一号の夜久月子とは真逆と言っていい程色々と違うが仲良くやっていると思う。
さてもう一人。七海哉太、同じく天文科の二年生。短気で頭に血が上りやすく、それでいて泣き虫。
ちなみに、先程少し話しを出した夜久月子とは幼なじみだという。彼女の他に、もう二人幼なじみが居るらしいがそれはまたの機会に紹介するとしよう。
話しが逸れたが、私は彼が気になって仕方がない。だが間違っても恋だの愛だのの類いではない。からかうリストの一人なのだ。それをよく理解しておいてもらおう。

「哉太、いつまで経っても起きないね」

隣の席でうなだれたように眠る背中を見てから、月子は私の方を見た。
規則正しく動く背中を見ると身体の調子が悪い訳じゃないのが分かる。「そのまま寝かせておけば?」そう言うと彼女はまだ七海の事を見つめていた。
私は話しを反らすように、彼女といつも一緒に居るもう一人の幼なじみの事について聞いてみた。

「東月はどこに行ったの?」
「え?ああ、錫也は職員室。先生に呼ばれてるんだって」
「そう。じゃあ先にお昼済ませちゃおう」

彼女達のもう一人の幼なじみ、東月錫也。七海や月子の面倒をよく見る兄貴みたいな存在。
ちなみに、残り一人の幼なじみは今は居ない。春が終わる頃にアメリカに行ってしまったのだ。彼もなかなか面白い奴だったんだけど。

「そうだね。机、くっつけちゃおっか」
「はいよー」

ガタガタと音を立てて机の向きを変える。さすがの七海もその音で起きるかと思いきや、変わらず寝息を立てていた。
お弁当を広げながら七海を見る私の目は呆れ返っているだろう。その証拠に月子が苦笑いしてる。

「なずなは哉太に厳しいよね」
「厳しいんじゃないの。からかってるの」
「それもそれで・・・どうなの?」

笑った月子は私を見てから七海を見てさっき私がしたような呆れた顔をして見せた。
ただ私の呆れ顔と少し違うのは彼女が笑っていたからだろう。

「しっかし、東月は遅れて食べるにしても、七海はこのままずっと寝てるつもりかね。お昼食べ損ねるよ」
「どうだろう。起こすのも悪いしなあ。パンは机の上に置きっぱなしだから食べる気はあるんだろうけど」
「てかコイツ、授業中からパン出してたのね……呆れた」

もう一度七海をよく見る。月子の言う通り、そこにはコロッケだのヤキソバだのの惣菜パンが数個乗っかっている。
私が授業中盤に七海を見た時は既に寝ていたから、奴は始めからパンを机の上に乗せて授業を受けていたらしい。本当呆れる。

「ねぇ月子。一個食べちゃおっか」
「え?!それはまずくない……?哉太きっと怒るよ?」
「んじゃ半分、それなら怒るに怒れないでしょう!」
「えぇー……」

今度は月子が呆れる番だった。私の食い意地もさる事ながら、七海の食い意地も余程のものだ。
机に散らばる中で一番美味しそうなヤキソバパンの袋を手に取る。七海は起きる気配なし。
袋を開けてパンを半分ちぎった。ヤキソバがちょっと多めに取れたけどまぁ良いか。
残った半分を袋に戻し、私はそれを三口で平らげた。
そして何事も無かったかのように自分のお弁当の蓋を開く。
月子はいつもの事だと思ったのだろう、もう何も言うまいとお弁当を食べ進めた。

「んーっ………」

昼休みが半分過ぎて、お弁当がもう食べ終わる頃。私の隣の人物がやっともぞもぞと動き始めた。
だが、起きてヤキソバパンを見たら怒るだろう。私はお弁当に残っていたおかずを口いっぱいに放り込み、お弁当箱をしまい始める。
月子はマイペースに食べ進めていて、私の片付けを見ても焦る様子はない。
そんな事をしている間にも七海は覚醒し始めていた。私は月子に後を頼むと、すぐに教室を飛び出した。といっても歩いてだけど。

「ふふん、ちょろいちょろい」

スカートのポケットに手を入れ、部室の鍵を取り出す。そこに着いたキーホルダーの輪を指に引っかけてくるくると回しながら悠々と歩き出すと、教室から七海の声が聞こえてきた。

「うわっ?!なんだこれっ!!俺のヤキソバパンが!!!」
「か、哉太!落ち着いて!」
「また三宮だな……!おい!!!出てこい!!!」
「ちょ!哉太ってば声が大きいよ!」
「今日という今日は許さねぇぞ……!」

私は聞こえる七海の大声と、暴走を止めながら慰める月子の声に笑いながら廊下を歩くのだった。
うん!今日も楽しい一日になりそうだ!


愉快犯の仕業


(20111019)


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