「すず乃」
「なに?」
「君に土産があるぞ」

恋人から差し出された柔らかい和紙の包み紙。そっと解けば中には色とりどりの星。白、桃、水色、黄色、緑、淡い五色が並ぶ。一つ摘まんで放り込めば、口の中に広がる優しい甘さが懐かしい。小さな頃、よく父が買ってきてくれた金平糖と同じ味がする。星を舌の上で転がしながら、机の向こう側の彼を見た。

「なんだ?」
「じっと見てるから欲しいのかと思って」
「そんなに見ていただろうか」
「見てるよ、今だって見てるじゃない」

二粒目を口に入れる。色は違えど味は同じ。甘さが重なり、口の中が幸せで満たされる。金平糖とは不思議なお菓子で。言ってしまえばただの甘い飴なのに、星型というだけでそれはもう特別な存在に見えたものだ。卓上で転がる星を見て、小さな頃の事を思い出していた。

「昔さあ」

ずず、と啜ったお茶が音を立てた。煉獄は静かにお茶を飲んでいる。同じものを飲んでいるはずなのにおかしいな。こういう所に性格が出るのだろうな。お茶をおいて三粒目を掴む。

「金平糖が本物の星だと思ってたの」
「本物の?」
「そう。父が『金平糖はお星さまが空から落ちてきた』なんて言うもんだから」
「なかなか面白い事をいう父上だな」
「でしょ。私ってば、すっかり信じちゃって」

小さな頃、父が土産で持って帰ってきた金平糖。小さな瓶に詰められた色とりどりのお星さまを見て、それはもう興奮したことを覚えている。それを大事に抱えて、何日もつれて回った。早く食べないと溶けてしまうよと両親は笑ったけど、私はどうしても勿体なくって開ける事すらできなかった。

「結局君は、その金平糖を食べたのか?」
「まあね。また父が上手い事を言ったから」
「お父上はなんと?」

舐めきる前に三粒目をかみ砕く。じゃりじゃりと舌の上で転がる星たち。溶けきる前に四粒目を放り込む。

「食べないと、お星さまは空に帰れないよ。って」

父は夜の縁側で星を見上げながら言った。瓶の中にいるお星さまを食べてあげないと、お星さまはお空のお家に戻れないんだよ、と。私はちょっとだけ考えて、閉じ込められた金平糖たちが少しだけ溶けて瓶に張り付く姿が、家に帰れずに泣いているように見えたのだ。そう思ったら早かった。すぐに開け、私は父と母に金平糖を分けてから、それはもうあっという間に食べつくした。ゆっくりと味わうなんて無縁で、味すら分からないくらい一生懸命に頬張り、すぐにお家に帰してあげようと必死な子供だった。なんて可哀そうな事をしたんだと、しばらくは罪悪感まで抱いたものだ。

「可愛らしいじゃないか」

煉獄は小さな頃の私を思い浮かべたのか、笑っていた。まあ確かに。今となっては笑い話だが、当時の私はそれはもう罪人のような気持だったのだから、少々父を恨んでも許されるだろうと思う。

「当時は深刻だったんだって。それに、私は十になるまで信じていたし」
「じゃあ毎回急いで食べていたのか?」
「そう。だからこうやってゆっくり食べられるなんて久しぶりだよ」
「それは貰ってきた甲斐があったな!」
「……貰ってきたって?」
「君の父上に決まっているだろう」
「は?」
「ついさっき、同じ話を君の父上からも聞いてきたところだ」

当たり前のように煉獄は言った。そうして懐から、瓶に入った金平糖を取り出して机へと置いた。それは間違いなく、小さな頃に食べた物と同じものだった。私はそれを奪う様に掴み取って煉獄を睨み付けてやった。だけど煉獄はなにが楽しいのか、にこにこと笑ったままこちらを見ている。

「悪趣味すぎ」
「人聞きの悪い言い方をしないでもらいたい!」
「事実だよ、事実」
「君は小さな頃から愛らしいと、誉めているつもりだったんだが」
「絶対誉めてない!」

したり顔。それは父が私をからかう時の顔とそっくりで、なんだか腹が立つのだけど。その顔が嫌いじゃないのだから、どうにも怒りきれないくて。持っていた瓶を開け、中身を一気に放り込む。

「君はどんな顔をしていても、愛しいんだな」

煉獄が笑って、私には甘さだけが残った。


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