「袖ヶ浦」

名字で呼ぶのは長年ついた癖だ。何度唇を重ねても、体を重ねてもその時は自分の名前に溺れるほど呼んでくれるのに。気が付くと今みたいに名字へと戻っているのだから、逆に器用だと感じる。私は今更、煉獄さんと呼ぶよう言われても呼べそうにない。

「名前、杏寿郎さん」
「………すず乃」

たっぷりと間を取って呼ばれた名前。何度呼ばれてもくすぐったさを感じるのは、普段名字で呼ばれているお蔭かもしれない。

「ん、」

名前を呼んだ唇がまた重なる。口の端からの漏れ出す空気すら逃すのが惜しいと言わんばかりに、何度も何度も口づけて。お互い息が上がっていく。杏寿郎さんは、反射的に逃げようとする私の腰を掴む。強引なのに優しさを感じるのは、お互いが好き合っているという証拠なのか。惚れているからそう思うのか。

「あんまり、焦らさないで」
「もどかしそうにしている君の顔が好きなんだ」
「へん、たい」

唇から頬、耳に落ちる唇から紡がれる言葉。耳にかかる熱っぽい声に、くすぐったいようなもどかしいような。抵抗するように身をよじると、唇が首筋に吸い付く。ちゅ、と私に聞かせるためにわざとらしく立てるリップ音。こうやって、私はまんまと杏寿郎さんの仕掛ける甘い罠にかかっていく。

「ベッド行こう?お願い」
「今日はここでしよう」
「汚れちゃうから……ね?」
「少しくらい、構わない」
「ひゃ、っ」

杏寿郎さんの指が服の隙間から腰をなぞる。わざと焦らす様な手つきに、より一層もどかしさを感じて、強請るように杏寿郎さんを見上げる。私の視線に気づいているはずなのに、知らないふりをして一番してほしい所をわざと外してキスをして、体中を触る。
普段の潔い態度とは違い、しつこいくらいの焦らしに私は我慢が出来なくなってしまう。

「お願い……触って」

体を這う手とは反対の手をつかんで、触ってほしい所へ導けば。望んだとおりの結果になったと言わんばかりの、悪い笑顔。ああ、もう。杏寿郎さんはずるい。ずるい。でも、焦らされるのは嫌いじゃない。それも分かってやっているのが、質が悪い。

「どこを触ってほしい?」
「だから、ここ……触っ、て」
「ここじゃあ、分からない」
「いじわ……っ、あっ……!」

じわじわと杏寿郎さんの指が私に侵食して。いよいよ何も考えていられなくなる。さっきまではここがソファだとか、汚れちゃうだとか考えていたのに。
今はもうそんな事どうでもよくなって。もっともっと、と。私の体も唇も。貪欲に杏寿郎さんを求めた。


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