プロローグ
戦争を批判する歌が廃止になった。
政界も変わり、新政令が発布された。
反対する奴や同意する奴、反乱国家や政界国家が生まれ、いつしか日本に内乱が起こり始めた。
最初は中年リストラ世代の小さな小さなレジスタンスだった。
しかし、画面の中での戦争ゲームに飽きた子供たちは本物の銃とナイフを握り、その規模を広めた。
今では大半が十代で仕切っている。
そして、18を迎えた一部の人間は、毎月始めに赤い封筒が送られた。
赤い封筒は、戦争へ行くことを意味していた。
そんな時代に阿耶は生まれた。
一番寒い月の日、カトリック系孤児院の前に捨てられていた。
赤い布にくるまれて―――。
悪魔の子として―――。
阿耶は孤児院での授業にも出ず、戒厳令によって死んでいた街をひとりふらついていた。
「…」
赤帽に見つかれば即補導だろうけど、自分には困らせたくない人間も家族もいない。捕まれば捕まったで、あとは孤児院の奴らが頭を下げて迎えにくるだけだ。無感動、無気力、有り難いと感謝したこともない。
冷たい風が頬を撫でる。
いつだったか、盗んだ酒を大量に飲んで帰路について、そのとき、何人かのシスターに支えられて、こみ上げてくる胃の中の物を全部吐き出したことがあった。
愕然とした。
吐いた行為にではない。
目を見開いて、一気に酔いが醒めた。
シスターたちも悲鳴を上げたが、それは自分と同意義じゃない。
驚いたのは出てきた異物の蒼さ。
なん、だよ・・・これ
見上げた月の
は・・・?
赤く、歪んだ姿に・・・
*
いつものように深夜の食事をとっているとシスターが声をかけてきた。
「マザーがお待ちです」
俺は食事を残し、マザーの部屋へ向かう。
途中、十字架に掛けられたイエス・キリストの壁掛けが床に落ちていたが俺には関係ない。通行の邪魔だとつま先で蹴り上げた。
ドアもノックせず、乱暴に開けて入った。マザーは窓からの月明かりを浴びながら俺を見る。
「阿耶、あれほど外に出てはいけないと言ってあるでしょう」
「・・・」
俺はシスターの間で、神の失敗作だの悪魔だの疫病神だのあらゆる負のイメージで囁かれていた。
「これ以上心配させないで」
マザーが十字を切る。
嘘くさくて反吐が出る。
「心配?いらないよ、そんなもの。別に育ててもらってるつもりもない。俺は、一人でやっていける」
マザーは顔を高潮させ長々と俺に説教をしたが、俺はそれを最後まで聞かず孤児院を飛び出した。
マザーやシスターから盗んだ少しの金を持って。
悪魔で結構。
天使なんかくそくらえだ。
失敗作?笑わせる。
俺に言わせてみればお前らのほうがよっぽどイカレてる。
俺は俺の力で生きてやる。
親なんかいらない。
友人なんか必要ない。
恋人も指導者も、俺には関係ない。
俺が孤児院を脱走した日、見上げた月はやっぱり紅かった。
TO BE CONTINUED
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