プロローグ





戦争を批判する歌が廃止になった。

政界も変わり、新政令が発布された。

反対する奴や同意する奴、反乱国家や政界国家が生まれ、いつしか日本に内乱が起こり始めた。

最初は中年リストラ世代の小さな小さなレジスタンスだった。
しかし、画面の中での戦争ゲームに飽きた子供たちは本物の銃とナイフを握り、その規模を広めた。

今では大半が十代で仕切っている。

そして、18を迎えた一部の人間は、毎月始めに赤い封筒が送られた。

赤い封筒は、戦争へ行くことを意味していた。
そんな時代に阿耶は生まれた。

一番寒い月の日、カトリック系孤児院の前に捨てられていた。

赤い布にくるまれて―――。

悪魔の子として―――。











阿耶は孤児院での授業にも出ず、戒厳令によって死んでいた街をひとりふらついていた。

「…」

赤帽に見つかれば即補導だろうけど、自分には困らせたくない人間も家族もいない。捕まれば捕まったで、あとは孤児院の奴らが頭を下げて迎えにくるだけだ。無感動、無気力、有り難いと感謝したこともない。

冷たい風が頬を撫でる。

いつだったか、盗んだ酒を大量に飲んで帰路について、そのとき、何人かのシスターに支えられて、こみ上げてくる胃の中の物を全部吐き出したことがあった。




愕然とした。

吐いた行為にではない。

目を見開いて、一気に酔いが醒めた。

シスターたちも悲鳴を上げたが、それは自分と同意義じゃない。

驚いたのは出てきた異物の蒼さ。

 なん、だよ・・・これ

見上げた月の

 は・・・?

赤く、歪んだ姿に・・・






いつものように深夜の食事をとっているとシスターが声をかけてきた。

「マザーがお待ちです」

俺は食事を残し、マザーの部屋へ向かう。
途中、十字架に掛けられたイエス・キリストの壁掛けが床に落ちていたが俺には関係ない。通行の邪魔だとつま先で蹴り上げた。



ドアもノックせず、乱暴に開けて入った。マザーは窓からの月明かりを浴びながら俺を見る。

「阿耶、あれほど外に出てはいけないと言ってあるでしょう」

「・・・」
俺はシスターの間で、神の失敗作だの悪魔だの疫病神だのあらゆる負のイメージで囁かれていた。

「これ以上心配させないで」

マザーが十字を切る。

嘘くさくて反吐が出る。

「心配?いらないよ、そんなもの。別に育ててもらってるつもりもない。俺は、一人でやっていける」


マザーは顔を高潮させ長々と俺に説教をしたが、俺はそれを最後まで聞かず孤児院を飛び出した。

マザーやシスターから盗んだ少しの金を持って。


悪魔で結構。
天使なんかくそくらえだ。

失敗作?笑わせる。
俺に言わせてみればお前らのほうがよっぽどイカレてる。

俺は俺の力で生きてやる。

親なんかいらない。


友人なんか必要ない。


恋人も指導者も、俺には関係ない。




俺が孤児院を脱走した日、見上げた月はやっぱり紅かった。











TO BE CONTINUED





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