如月斗真は居ても立ってもいられず、部活も休んで苗字なまえの家まで走った。

普段真面目ななまえが無断で学校を休んだのだ。
きっと何かしら理由があるに違いない。
プリントを渡す名目で幼馴染みの俺が会いに行く事くらいは許されるはずだ、と自己正当化しながらいつもより静かな彼女の部屋のドアをノックした。

「おい、なまえ。入るぞ?」

部屋の主は、ベッドの中からゆっくりこちらへ視線を動かす。

「斗真…?」

ベッドの中のなまえの姿に、俺は思わず息を飲んだ。
泣き腫らしていたのだろうか、潤んだ瞳。力なく開く口許。枕に散る髪。そして、普段よりボタンを開けた胸元からチラリと覗く谷間。
…惚れた女にそんなものを見せられて平静でいられる男などいるものか。

そんな劣情を理性の力でどうにか押さえつけて。あくまで「幼馴染み」の顔で欠席の理由を訊ねる。

「ミーちゃんが…。」

「ミー、ってあの猫だろ?俺たちが幼稚園の帰りに拾ってきた。そいつがどうした?」

なまえは、目を涙でいっぱいにしてから無言で彼女の机を見遣る。
その視線の先にあったのは風呂敷に包まれた小さな箱と主のいない首輪。

「斗真っ。ミーちゃん、いなくなっちゃった…!!」

ぼろぼろと溢れる涙を止めることができないなまえを直視できない俺は、おそるおそる彼女を胸に抱き寄せ髪を撫でた。

「おまえ、本当にあいつが好きだったもんな…。今は、俺が胸を貸してやる。好きなだけ泣いていいぞ?…な?きょ、今日だけ、だからな?」

そうは言っても本音では、何であろうとこいつを泣かせる奴は許さない。
例えそれがなまえの飼っていた猫であろうとー

君に涙は似合わない。
だから、涙は俺の胸にしまってくれ。
俺が、全部受け止めてやるから。





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