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 季節は廻り春が訪れた。薄く色づいた桜花が校舎の周りを彩っている。散る花びらははじまりの季節に色めきだった若人たちの旅路に優しく積もっていく。
 ミホとリカは昨年度同様、翼と同級生になった。桜とクラスが離れ離れになった翼は明らかに落胆しており、その上恋敵(彼の独断だが)である六道りんねが彼女とまたしても同じクラスになったらしいことを知って、新学期早々溜息ばかり零して、再起不能なほどに落ち込んでいた。
 終業後、そんな憐れな同級生を慰めてやっていたミホとリカは、百葉箱の側で連れ立って佇む渦中の人物達を見つけて、揃って「あっ!」と声を上げた。二人の声に反応して顔を上げた翼は、なにやら仲睦まじく談笑している元同級生達を視界に捉えると、頭を抱えて思わず絶望の声をもらした。
「仲良さそうに話し込んでいるっ!もう終わりだっ…真宮さんは六道を選んだんだ……!」
「えー、まだ付き合ってるって決まったわけじゃないじゃん!ほらほら、ちょっと聞いてみようよー」
 リカが容赦無く翼の襟首を掴んで引き摺っていくのを慌てて追いながら、ミホは若干憐れみの籠った視線で彼を見つめた。翼は「離せっ」と喚きながらじたばたと暴れたが、リカの呼びかけに答えて桜が彼の名を呼ぶと、逃げ出すわけにもいかなくなり、今度はうっと言葉に詰まった。
「翼くん、今年は違うクラスになっちゃって残念だよ」
 目の前に立つと桜が至極残念そうな声色でそう言うので、先程の絶望はどこへやら、翼は満面に喜色を浮かべた。しかし、そんなささやかな喜びに横槍を入れるように、リカが単刀直入な問いを投げ掛ける。
「ねーねー、桜ちゃんと六道くんってさ、ホントに付き合ってないの?」
 翼の顔から喜色が失せ、真顔になった。即座に否定してくれることを祈ったが、彼女の反応はどうにも煮え切らないものだった。瞬きをしながらりんねを横目に見遣り、まるで「どう答えたらいいだろうね?」とアイコンタクトをとっているかのような様子が、翼に衝撃を与えた。
「まっ、まさか真宮さん、本当にこんな借金持ちの男と付き合って……」
 よろけながら後退る翼に、今まで腕を組んだまま黙していたりんねは一体何を思ったのか、途端に面妖に思えるほどの笑顔を浮かべて、歩み寄っていった。
「借金持ちで悪かったな。そんなに知りたいんなら、教えてやろうか?」
「うるさい、寄るな!貴様の言うことなど聞きたくもないっ」
 吼え立てる翼の肩に手を置いたかと思うと、りんねはにっこりと、腹黒さの露呈した笑みを浮かべた。その手を振り払って、翼は再び絶望の声を上げながら、校門に向かって疾走していった。
「あーあ、かわいそー」
 リカが非難を込めてりんねを一瞥すると、りんねはイタズラが過ぎたかと肩を竦めながら、桜を横目で窺い見た。桜は表情に困惑の色を浮かべている。
「で、結局のところどーなってるの?桜ちゃん、本当に六道くんと付き合ってるの?」
 そろそろ白黒付けてよ、と思いながらミホが溜息をついて訊くと、途端にりんねは仏頂面になり、桜は言葉を選ぶかのように首を傾げた。
「何と説明したらいいかわからないな」
 と、りんねは思わせぶりなことを言った。桜はそれに同調するように頷いた。当事者たちにすらわからないことを知り得るはずも無く、リカとミホは顔を見合わせ、揃って不思議そうな顔をした。
 ただ一つわかったのは、この二人の間に、名づけることが難しいつながりが存在しているらしいということだった。





end.

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