ゆびきりげんまん

「Jam tomorrow.」side:R

いつもただひたすら待っていた。祖父でも祖母でもなく、あの男の手が小さな体を軽々と抱き上げてくれるのを。
 育ての親である祖父母はこのうえなく優しかった。けれど父と呼ぶ人のぬくもりもまた恋しかった。あの男は時折思い出したように実家に預けた息子へ会いに来た。そして気まぐれにおもちゃなどであやしていたかと思うと、すぐに飽きてこそこそと盗っ人まがいのことを始めた。しまいにはいつも祖母に首根をつかまれ、このロクデナシという決まり文句とともに家の外へ叩き出された。
「りんね、明日また会いに来るよ」
 胸に穴が開いたような気持ちで見送る幼い息子へ、去り際のあの男は言った。それはあの男にとっては「おはよう」や「さようなら」のような取るに足らない挨拶と同等だったのだろう。その言葉は十回に一度として実行されたためしがない。
 それでもまだ物事を三日と覚えていられない年頃だったから、約束を反故にされたことなどすぐに忘れて、また何度でもあの大きな手を待ち焦がれた。「いい子」にしていればきっといいことがあると祖父母が口にすれば、その言いつけを律義に守った。近所の子どものように、おもちゃや菓子をむやみにねだることはしない。駄々をこねて泣きわめくこともない。
「今度来た時は、イチゴ狩りに連れて行ってあげよう」
 あの男が珍しく具体的な予定を提示してきた時は、思わず万歳するほど嬉しかった。「いい子」にしていれば確かにいいことがあると身をもって学んだ瞬間だった。
「よしよし。ゆびきりげんまんだ」
 約束の証といって、あの男はにこにこと笑いながら小指を突き立ててみせた。
 嬉々として差し出した幼児の指が、どれほど小さかったか。からめた指と指越しに浮かんでいたあの笑顔ほど、鮮烈には記憶されていない。

 



2020.10.25

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