月の聲
夕暮れ時に落ち合おう、と犬夜叉は言った。彼の方から約束を取りつけてくることはあまりない。逢引きに誘われ浮き立つ心持ちで、出がけに髪を梳かすかごめの唇からは、玉をまろばすような旋律が流れ出ていた。
「犬夜叉、もう待ってるかな」
鼻歌まじりに芒野原をかき分けていく。山颪が吹くと、尾花が一面白波のようにさざめいた。その只中にかごめは一際輝かしい銀のひとすじを見出した。──犬夜叉、と呼びかければ二つの犬耳が聞きつけて、
「かごめ、今行く」
彼は子犬のように一目散に駆けてくる。赤い袖を振るたび、ちりちりと鈴を振るような音が鳴り響く。手に手をとってその正体を尋ねてみれば、彼女を待つ間、虫捕りに興じていたのだと言って、彼はその音色を分かち合うかのように、かごめの袖口にそっと「人まつ虫」を忍ばせてきた。
20.10.01(十五夜)
Boule de Neige