Gold and lead


 ある少女が、道端で泣いている小人に出会いました。
 聞けば小人は空腹で、もう一歩も歩けないのだとか。心優しい少女は、気の毒に思い、持っていたお菓子を小人へ分け与えてやりました。
 小人は目を輝かせて、感謝の言葉を口にしました。そして、少女に何か特別な“贈り物”をしたいと伝えました。少女は断りましたが、小人によれば──その“贈り物”はすでに少女へと授けられているということでした。

 “贈り物”といっても、目に見えるものではないらしい。そもそもからかわれただけかもしれない。いかにも悪戯好きそうな小人の顔を思い出しながら、桜はクラブ棟の錆びたドアノブを回す。
「六道くん、差し入れ持ってきたよ。──」
 すると、不思議なことが起きた。──彼女の口から、一枚の金貨がぽろりとこぼれ落ちたのだ。想い人の訪れに有頂天になって立ち上がりかけた死神の少年は、きわめて不自然な姿勢のまま、石像のように固まってしまった。
 思い当たる節のある桜は、道中の出来事を彼に語り聞かせた。小人に会ったこと。恩返しの“贈り物”をすると言われたこと。──その間にも、純金の輝きは砂のように彼女の膝の上にきらきらと降り積もっていく。りんねは平常心を保ちがたい様子で、ちらちらとその金貨の山に目を配っている。
「“小人の贈り物”──か。小さい頃、おばあちゃんからおとぎ話を聞いたことはあるが……」
「これって、ちゃんと治せるのかな?」
 不安げに尋ねる桜の唇から、また一枚、黄金が生み落とされた。──それをごく間近で目撃したりんねは、そのあまりのまばゆさに目を回し、ばったりと昏倒してしまう。
「六道くん? ……六道くん、生きてる?」
 桜は小さな溜息をついた。頼みの綱である少年が、現世に帰還するのを待つほかなかった。

『──心配するな、真宮桜。おれが必ず手立てを見つけてみせる』
 そう言って、強く握り締められた手を、桜はじっと見下ろしている。
 普段なら、あの死神の頼もしさを心底嬉しく思いながら、帰路につくところだろう。けれど今日は、どうも心にもやがかかっている。──金貨の山を置いていきたいと伝えた時の、あの惚けた表情。あれは、思いがけない儲けを手にし、嬉しくてたまらない時の顔だったような気がする。
「六道くんは、私のことが心配じゃないのかな……」
 ぽつりと呟きざま、またも金貨が彼女の口からこぼれ落ちた。桜は、せっかくの差し入れを渡しそびれたことに今更気付き、冷たい鉛を飲み込んだように、心が重く沈んでいくのを感じた。
「──真宮桜」
 桜は今ばかりはその呼び声を聞きたくないと思った。だから黙っていた。羽織を着たりんねが、返事をもらえないことに動揺した様子で近づいてくる。
「真宮桜。……怒っているのか?」
『六道くんは、私の返事よりも、私の口からこぼれる金貨が欲しいんでしょう?』
 心の声が視線に表れたのかもしれない。彼ははっと赤い両眼をみはり、ちぎれんばかりに首を左右へ振った。
「金貨が欲しいんじゃないの?」
「欲しくない。──おまえが望まないものを、おれは受け取りはしない」
 りんねがきっぱりと言い切った瞬間、桜は心の奥底に沈んでいた鉛の塊のように重いものが、跡形もなくかき消えていくのを感じた。
 憑物が落ちたように晴れやかな顔をした桜を見て、りんねもまた、ようやく深い安堵の笑みを浮かべることができた。
「もう大丈夫だ。──“小人の贈り物”は、これで消えたはず」
 桜は頷き、遠慮がちに彼の手をとった。
「ごめんね、六道くん。……本当はね、これを渡したくて」
 その手に、差し入れのラッピングをそっと忍ばせる。中にぎっしりと詰まっているのは、金の包み紙のチョコレート。
 ──天使の贈り物だ!
 有頂天なったりんねは、「ママ(39)が買いすぎちゃって……」という説明をすっかり聞き流してしまいながら、チョコレートごと桜の手を熱烈に握り締めるのだった。




20.09.25
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