親友

*坊,ハク,湯婆婆

地鳴りのようなすさまじい音が塔の天辺に響き渡っていた。
 それは隣接する子供部屋の中から聞こえてくるのだった。まるで、巨人が絶えず地団駄を踏んでいるかのような騒々しさである。
 このままでは建物が倒壊しかねない。
 たまりかねた湯婆婆は目先の用事を先送りにし、子供部屋の扉を開けた。
 中をのぞきざま、およそ赤ん坊とは思えぬ巨体がカーテンの向こうからぼんと突き出てきて、老いた魔女を圧倒した。怒りに燃えるわが子の目に見下ろされ、湯婆婆は呆然とする。
「ぼ、坊……? どうしてそんな目であたしを見るんだい?」
「バーバ、ハクをひどい目にあわせようとしてるんでしょ」
「な、何を言うんだい? バーバはねェ──」
 坊は言い繕う母親を押しのけ、一歩絨毯を踏むごとに塔全体を揺すりながら、部屋の真ん中で立ち尽くしているハクのもとへ近づいていった。
「ハク、けがしてない? 平気?」
 どこかで聞いたような台詞だ。近くにいるうちに、すっかり感化されてしまったらしい。その人の姿を心に思い描き、ハクは温かく微笑んだ。
「坊、そなたも私に味方してくれるのか」
「うん」
「なぜ?」
「友達だから」
 肉に埋もれた坊の目が、きらきらと輝いている。
「千は坊のはじめての友達で、ハクは千のだいじな人だから」
 うん、とハクはうなずいた。坊も嬉しそうに何度もうなずき返す。
「ハクのことは坊がまもるんだ。ハクに意地悪したら、バーバのこと、きらいになっちゃうからね!」
 痛めた腰をさすりながら一連のやりとりを聞いていた湯婆婆は、突然差し向けられたこの言葉にぎょっとした。
「ああ、そんなこと言わないでおくれ、坊!」
「やだ! ハクを千と同じ世界にもどしてあげるの!」
「だから、これからそうするから! でもねェ、それには試練がいるんだよ。だからといって、あたしを嫌いになんかならないでおくれね、坊〜」
 普段の威勢はどこへやら、めそめそしながら坊に縋りつく。母親が友達を傷つけるのではなく、願いを叶えてやろうとしていることを知り、坊はきょとんとした。
「ありがとう、坊」
 肉厚なその手を、ハクが心をこめてそっと握りしめる。
「味方してくれて、とても心強いよ。何があっても、きっと元の世界に帰ってみせるから」
「そしたら、また千に会える?」
「うん、きっと」
 坊はまるで自分のことのように、満面の笑みを浮かべて喜んだ。
 



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(2020.9.5)

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