おひるごはん

*千尋,悠子

またそれなの、と呆れたように母の悠子が声を上げた。
「毎日おにぎりだけじゃない。いくら簡単だからってねえ……」
「えー? いいでしょ、好きなんだから」
 千尋は鼻歌交じりにラップを切り、今しがたこしらえたおにぎりを手際よく包んでいく。高校にあがってから、共働きで忙しい母を気遣い、弁当は自分で作ることになっていた。
 けれど悠子は、娘の自立をうながすためによかれと思って決めたことが、実際のところ、あまり千尋のためになっていないのではないかと心配していた。
「おかずなら作り置きのが冷蔵庫にあるでしょう? それも詰めて持っていけばいいじゃない。それだけじゃ、栄養が偏るわよ」
「いいの。わたし、おにぎりだけで充分だもん。朝ごはんと夜ごはんはちゃんと食べてるし、大丈夫よ」
「でも……」
 ふと、巾着の赤い紐を結わえていた千尋が、遠い目をした。
「──わたし、今まで食べたものの中で、塩むすびが一番おいしかったような気がするの」
「え? ただの塩むすびが?」
「うん。なんでかな、涙が出るくらいおいしくて、すごく元気になれたような気がする。だから今でも、無性に食べたくなるんだよね」
 悠子は娘の横顔をまじまじと見つめる。いつからか、こうして時々年に合わない達観したような表情を見せるのが、とても不思議だった。
「そんなに好きなら、まあいいけど……」
 



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(2020.9.5)

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