例えば君と千年を共に「五百年後にあたしは生まれたわけでしょ。そしたら、その次に生まれてくるのは、そのまた五百年後かなあ」 赤子に乳を含ませながら、なにやら思案顔でかごめは呟いた。赤子の柔らかな頬をつついていた犬夜叉は、思い切り眉を顰める。 「死んだあとの話なんざ、縁起でもねえ」 「あら。でもあたしだっていつか死ぬのよ?あんたとこの子を置いて」 至極さらりとした調子でかごめは言う。静かな瞳に心の淵まで見透かすように見詰められて、犬夜叉が叱られた子犬のように耳を垂れた。 「…今はそんなこと、考えたくもねえな」 「でも、いつか必ず向き合わなくちゃいけないことでしょ」 赤子の背を軽く叩いて、げっぷを促してやりながら、かごめは宥めるように微笑した。 「ねえ犬夜叉、あたしはあんたをひとりにしないからね」 犬夜叉はかごめを見詰める。産着に包まれた赤子が微睡み始めるのを、彼女は慈母の眼差しで見下ろしていた。 「あたしがいなくなっても、この子がいるわ。この子が誰かを好きになって、子供が生まれたら、その子が犬夜叉の側にいる。そうやってずーっと続いていくでしょう。だから、あんたはひとりぼっちじゃない」 「けっ」 鼻を擦りながら、犬夜叉はあさっての方向をむいた。 「そのガキ達が俺なんかといたがるかなんて、わかんねえだろ。妖怪の血が薄れていって、しまいには人間と同じになるんだぜ。半妖の俺とそいつらが、同じように生きていけると思うか?」 「もちろん、思うわよ」 自信満々にかごめは言ってのけた。犬夜叉は、涙が滲んだ目を瞠る。 「…何を根拠に、そんなことが言えるんでい」 「なんとなくよ」 「って根拠なしかよ。説得力ねえな…」 「あんたが、信じるか信じないかの話じゃない?」 優しい声で問い掛けながら、かごめは犬夜叉の背に抱き着いた。 「千年待っていて。──五百年後のあたしは、ここに来るためにいなくなっちゃうから」 犬夜叉は小さく鼻を啜った。 「千年も、ガキのお守りしてろってか」 「うん、そういうことね」 「気の遠くなる話だな」 「そうね。星を数える方が簡単かも」 「…でもよ、千年も待ちぼうけ食らって、もしお前に会えなかったら?」 小さく震えた犬夜叉の肩に、かごめは顎を乗せた。 「その時は、多分もう側にいるわ」 犬夜叉は小さく頷いた。それはまるで、遠い日の母を偲ばせるような、優しく慈しみ深い声だった。 end. back |