午 睡 番


 このままどこに行くのだろう。ゆるやかな水の流れに身をまかせ、急くことのない船路をのどかに進みながら、彼は重たげな瞼をひたすらこすっている。
 霞がかった川辺の景色は、無限に続く夢と現実のあわいを彷彿させた。はらはらと空へ水へ散りしきるものに、ぼんやりと目を向ければ、そこだけいっそう時の流れを遅らしたように見える。なかば夢をさすらうかのような浮遊感が、眠気にあらがう彼の頭をますます重く垂れさせていった。
「眠いの? 犬夜叉」
 かくんと船縁に落ちかけた頭は、人の手に優しくとらえられた。そのまま膝枕へと導かれ、犬夜叉はこのうえない安息へその心をゆだねる。
「こんなにいい天気だもんね。なんだか、うとうとしたくなっちゃうよね」
「……けっ。呑気なもんだぜ」
 彼女の手が散らばった前髪越しに彼の額を撫ぜた。天邪鬼な言葉とは裏腹に、それだけで唇から安堵の吐息がこぼれおちる。
「少し休んで。私がここにいるから」
「これから妖怪退治って時に、嫁の膝で悠長に寝てられるかよ。あいつらに何言われるか……」
 ふふ、と笑う声がする。
「大丈夫。ほんの少しだけよ。そうしたらきっと、またいつもみたいに、心が冴えるから」
 まるで子守唄のように耳に心地良い。不思議と随分長いこと、その声を聞いていなかったような気がした。
「なあ、かごめ」
「──なに? 犬夜叉」
 目が覚めてもそこに居てくれるかと聞きたかった。だが額にふたたび彼女の指先が触れたと感じた時、にわかに胸の底が熱くなり、どうにも止められなかった。



20.05.12

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