A Butterfly




 白い蝶がひらひらとやわらかな空の色に透けて見える。右へ左へ移り気にさすらうのを目で追ううちに、かたわらで歩調に合わせてゆれる黒髪の一際つややかな所にそれは翅を休めた。
 当の本人は気づいていない。白い蝶を生きた髪飾りにしたまま、他愛もないおしゃべりを続ける。犬夜叉は時おり横目でそれが薄い翅をたたんだり広げたりするのを見守りながら、短い相槌をうつ。
 野路を行く二人の姿を見かけた農夫たちが、畑仕事の手を休めて声をかけてきた。難儀している様子を見逃さず、かごめは晴れやかに笑って彼を見上げる。言わんとすることはとうに知っていた。鼻から小さく息を吐くなり、一飛びで彼の裸足は田畑のやわらかな土の上へ着地する。
 農夫が腰を痛めながらあつかう農具を、犬夜叉は腕一本で軽々と振り上げた。よっ百人力、などと口々におだてられれば、つい乗せられてしまう。
 ふと、無邪気にはしゃぐ声に髪を掻き上げた。
 一瞬、白い蝶が翅を広げたように見えたものは、小袖をひるがえしたかごめの輪郭だった。迎えにきた子どもたちと、右へ左へ、捕まえたり捕まったりするその姿はすっかり童心に帰っている。
「──犬夜叉!」
 見守る視線に心づくと、両手を口の横にたて、まるで山びこを呼ぶかのような大声を出した。
「最後にうちに着いた人が、今日のお風呂当番だからねー! よーい、どんっ」
 犬夜叉は笑いざまにとがった牙をちらつかせた。野を駆ける山犬さながらに、愛しい蝶を追いかけるその銀髪を、白いひとひらがそっとかすめた。



20.03.12
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