A kiss goodbye



 私達のせいじゃないわよ、女死神のひとりが悪びれもなく言った。無理矢理飲ませたりなんかしてないわ。自分で勝手に出来上がっちゃったんだから。だから、そんな恨めしそうな目で、こっちを見ないでよね。
 バカな鳳、別の女死神が小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。あんたにはわからないの? こいつは、私達が桜にしこたま飲ませたことを怒ってるわけじゃないわ。きっと、ただただ、私達に妬いているだけなのよ。
 あらそうなの、さらに他の女死神がカクテルを揺らしながらちらと彼を流し見た。六道りんね、あなた少し過保護……というか、束縛がすぎるんじゃないかしら。沫悟くんがこの場にいたら、きっとさぞ妬いたことでしょうね。あなたの真宮桜さんに。

(あいつらめ。相変わらず、顔を合わせれば言いたい放題言ってくれる……)
 魔の巣窟のように思われた「女子会」から脱出しおおせたりんねの口から、疲労の溜息がこぼれた。それを聞いた眠り姫は、その腕の中でとろとろと短い眠りから目覚める。
「……あれ? 六道くんだ」
「迎えにきたんだ」
「いつの間に──?」
「ついさっき、な。ちょうどお開きになるところだった」
 本当は店の外で桜が出てくるのを今か今かと待ちわびていたのだが、杏珠から投げつけられた「過保護」「束縛」という言葉がふと脳裏をよぎり、そのことは黙っておこう、と心の声がささやいた。誰にどう思われようと一向に構わないが、桜にだけは「重い男」などと絶対に言われたくないりんねであった。
「今日は楽しかったか?」
「うん。久しぶりにみんなで集まれて、みんながお祝いしてくれて、うれしかったよ。──うれしくて、少し飲みすぎちゃったな」
 あどけなく笑いながら、桜が彼の首すじにギュッと抱きついてくる。りんねは、心臓を思いきり鷲づかみされたように鼓動が跳ね上がるのを感じた。
「ねえ、六道くん」
「──う、うん?」
「……して」
 りんねはもう一度、聞き返した。
「──サヨナラ、してほしいの」
 彼の耳に触れそうなほど唇を近づけて、桜がそっとつぶやいた。
 りんねは、しばらく目をパチパチさせていたが、みるみるうちに血の気が引いて蝋人形のように青ざめていった。
「え……。さ、サヨナラ──とは……?」
「うん。"真宮桜"に、サヨナラしてほしいな」
 ──今日で最後だから。だって明日には、もう、会えなくなるでしょ?
 桜の手のひらがりんねの両頬を包みこんだ。りんねは不覚にも目頭があつくなるのを感じた。この世でたったひとりの天使が彼に微笑みかけてくる──ただひとり、彼だけに。その澄んだ瞳にひきよせられながら、彼は、どこかで祝福の鐘が高らかに鳴るのを聞いていた。




2019.11.20
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