鏡あわせ


 その手には二つの鏡。向こう側には、似て非なる顔が映し出されている。
 いつからそれが視えるようになったのか。かごめには、もうはっきりとは思い出せない。──ただ、ある時ふとしたきっかけで、楓からこんなことを教わった。鏡には不思議な霊力がある。合わせ鏡は時として、この世ならぬものの姿をとらえることがあるらしい──と。
 それを聞いた後であったかもしれない。
 彼女をじっと見つめ返す、あのまなざしに気がついたのは。
「まーた、見てたのか?」
 背後から唐突に差し向けられた声。構って欲しくてたまらないように、かごめの背中に抱きついてくる。鏡の中に映りこむ、拗ねた子どものようなその顔。自分の肩に回された腕に、かごめはなだめるように触れた。
「女ってのは、そんなに鏡で自分の顔を見るのが好きなのか?」
「別に、自分の顔を見てるわけじゃないわ」
「……ん? じゃあ、何が見えるってんだ?」
 秘密、と含めて笑いつつ、かごめはささやく。
 離していた二つの鏡をたがいに近づけて持つ。その中で、犬夜叉がかごめと頬をあわせている様子が像を結んだ。曇った鏡の中で目と目があうと、金の瞳がほんの一瞬雲の向こうの綺羅星のようにきらめいた。──そうして瞬きの後には、かごめはその唇に彼のぬくもりを感じていた。
 その感触を、指先でゆっくりたどって記憶させながら、
「私が笑う時、きっと、あんたも笑っているのよね?」
「……?」
 明らかに自分に向けられたものではない言葉に、犬夜叉ははたとあどけない顔をして、目をしばたたいている。
(勝手にそう信じていても、いい? ──桔梗)
 冷たくすべらかな鏡面を指でなぞりながら、かごめはふと微笑み返した。



2019.11.18
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