モダンガール
きつくしますわよ、と言われたことに気がつかなかった。だから唐突に帯ひもをギュッと締められた時、
「──あ、苦し」
菜花はつい情けない声をもらしてしまった。
玉をまろばすように貂子が笑う。
「慣れていらっしゃらないのかしら?」
「すみません。袴なんて、穿いたことなくて……」
「まあ、よほど洋装がお好きなんですのね。摩緒先生も洋服を好んでいらっしゃるのよ。その方が動きやすいからとおっしゃって」
摩緒の名が出た途端、菜花はふてくされたような顔になる。
不信感が募っていた。あの陰陽師は菜花の意思などお構いなし。会って間もないのに、まるで手下のような扱いである。今も、危険を承知で、わけのわからない場所へ行かせようとしている。
当の本人は外でたそがれていた。貂子に連れられて菜花が出てくると、
「貂子さん、世話をかけてすまないね。なかなか似合うじゃないか」
形ばかりのお世辞を送ってくる。
「まるで今流行りの、なんと言ったかな……新聞でよく見るんだが──ああ、そうだ。モダンガールのようだね」
「まあ、たしかに、"モダン"ではあるけど……」
仏頂面で菜花は返す。摩緒はその皮肉がのみ込めなかったらしく、少し首を傾げたきりだった。
2019.11.16