かたわらを颯爽と駆けぬけていく。
いつかもどこかで、彼を追い越していったであろう──風。
まるで野山からはるか遠ざかったように、しばらく凪いでいる時もある。かと思えばある日には、一晩中、激しい嵐となって荒れ狂いなどもする。
地上における、もっとも気まぐれで、自由な旅人。
「──……わあっ!」
背後からの追い風に押されたりんが、前を歩く殺生丸の背に抱き着く格好になった。
「ご、ごめんなさいっ。風が強くて……」
「……」
腹にまわされた手が離れてゆこうとするのを、殺生丸はとらえる。大きな手であたたかく包み込まれ、りんの頬がかすかな色を帯びた。
「殺生丸さま──?」
風は笑う。見守る。そして後押しさえする。
──心の向くままに行け、と。
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(2019.11.09)