不養生



「少し熱があるね」
 検温器から目を離した摩緒は、菜花の顔を観察するようにじっと見つめている。
 空元気を出していたつもりはないけれど、一度は診察を拒んだ手前、なんとなくばつが悪い。自然と菜花の視線は摩緒から逸れ、かたわらの小上がりで背を丸めながら薬研をつかっている式神の小さな姿へとむけられた。
「解熱剤を出そうと思うが、妖用と人間用、菜花にはどちらがより効くかな。──乙弥はどう思う?」
「私、人間の薬がいい」
 乙弥が答えるのに先んじて、菜花は即答した。たった今その式神がすりつぶしている得体の知れない薬を飲むのは、やや気がひけた。
「というか、いいよ、薬なんて。うちに帰ればちゃんとあるし……」
「風邪は早いうちに治した方がいい。あっという間にこじらせてしまうからね」
 菜花の言い分を聞いているのやらいないのやら、摩緒は医者めいた口調で諭してくる。
 そして菜花が答えに窮していると、おもむろに両手をのばして彼女の首に触れてきた。
「喉の奥が、少し腫れているかな……」
 触診して分かったことを、独り言のようにつぶやく。
 かすかに消毒液の匂いがする。冷たい指先が菜花の首筋を指の腹でそっと押すようにして、それから得心したように離れていった。
 式神に何事かを指示している摩緒の声を、菜花はほとんど聞いていなかった。ただ、彼の背後の戸棚に並ぶガラス越しの薬壜の鈍いきらめきを、熱に浮かされたようにぼんやりとながめていた。



19.10.18


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