射干玉ぬばたま


*R15

 梅雨って嫌よね、と口癖のようにかごめは言う。洗濯物は乾かず、火はつかず、なによりも、湿気で髪が首筋にまとわりつくのが心底不快なのだという。そうした愚痴を耳にするたび、彼は背徳的なほほ笑みを隠しつつ、心ひそかに異を唱える。──不快どころかむしろ、今この時期だからこそ、しびれるような快楽を得られるのだと。
 犬夜叉は、彼女の黒髪をひとすじ、手の上にすくいとる。
 つややかな髪は、暗がりに白く浮き上がるその肢体と同じく、水に濡れたようにしっとりと湿り気を帯びていた。夜の彼女は、その美しい裸体だけでなく、その髪の一本一本からさえも匂い立つような色香を放つ。犬夜叉は、彼女の髪に手櫛をとおすようにしながら、髪が自分の指に吸いつき、からまる感触をしばし愉しんだ。
 大人しく髪を弄ばれていたかごめが、下から上目遣いに彼を見つめてくる。その瞳が悪戯っぽく笑った──かと思うと赤い舌先がまた、ちろりと彼を舐めた。
「かごめ」
 不意打ちの再開に、たまらず犬夜叉の肩が震えた。掌からしとしとと髪がこぼれ落ちていく。すらりと伸びた首筋に、なだらかな肩に、二の腕に、背中に、はりのある豊かな乳房に、黒髪がはりつき、濡れて、むせ返るような女の匂いがする。
 犬夜叉は仰け反り、頭上を見上げながら悩ましい溜息を吐いた。
 かごめが唇を指先でぬぐいながら、外の様子をうかがっている。
「まだ、降りそうね。明日も、明後日も……」
 両肩に手が添えられた。菩薩のように穏やかな顔をしたかごめが、彼女の名を呟こうとしてかすかに開いた犬夜叉の口を、優しくふさいだ。



2019.07.04
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -