昼を知る月

  

 ねんねんころりよおころりよ。ぼうやは良い子だ、ねんねしな──
「……やっぱり、似てる」
 優しく子守唄を口ずさむハクの横顔と、その腕に抱かれて眠るわが子とを交互にながめながら、千尋はふと笑う。
「さすが親子だね」
「そんなに、似ている?」
「うん。そうやって抱いてると、特に横顔がそっくり。あと十年くらいしたら、きっとあの頃のハクみたいに、きれいで賢い子に育つだろうなあ」
 ハクは自分の血を濃く受け継いだらしい乳飲み子の寝顔を、底なしに深い愛情のこもったまなざしで見つめている。
「私には千尋のおもかげが見える。きっと千尋に似て、優しくて芯の強い子に育つのだろうね」
「そうかなあ。わたしに似たら、ドジでとろい子になっちゃうかも」
「なら、私に似てしまえば、自分の名をうっかり忘れてしまうようなおっちょこちょいに育つだろうか?」
 二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。ふとハクが首を伸ばして、千尋のまだ持ち上がったままの口の端に、自分の唇を押し当てる。
「私は千尋に感謝してもしきれない。千尋は私に、何にも代えがたい宝物を与えてくれたから」
「それは……お互い様だよ。ハク」
 千尋は唇をかすかに開いて、二度目の口づけを受け容れた。顔と顔が重なり、彼女の瞳にハクの優しいまなざしが注がれる。
 ──わたしもあなたにありがとうと言いたい。この宝物は、たったひとりで生みだせるものじゃないから。
 彼女の胸の内に秘めたはずの思いが瞳や交わした唇から伝わったのか、ハクは口もとにつやのある笑みをいた。
「……欲が出てしまっていけないな。これ以上の幸せはないはずなのに」
「えっ?」
「いや、なんでもないよ。ただ──」
 ゆりかごのように腕の中の嬰児みどりごを揺らすハクが、安らかな寝顔から、上目遣いに千尋へと視線を向ける。
「こんなにいとしい宝物がもうひとつ増えれば、どんなに喜ばしいだろう? ……そう考えただけなんだ」
 ひたい、頬、唇、首もと。彼が見つめるところに、ことごとくその唇の感触をおぼえ、千尋は息の詰まるような思いがした。そして愛息子の小さな手を左右それぞれ握りしめながら、今度は、千尋の方からハクに顔を近づけていく。
 ねんねんころりよおころりよ。ぼうやは良い子だ、ねんねしな──



19.06.28
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