沼の底は、昨夜から雪が降っていた。
銭婆の庭の雪かきを手伝いながら、千尋はハクやカオナシとレタス畑のそばにかまくらを作った。中には雪で作った簡易テーブルと椅子も置いてみる。三人で入るには窮屈な大きさなので、かわるがわる休憩所として使うことにした。
「だいぶやんできたよ」
肩に積もった雪をふりはらいながら、ハクがかまくらの中に入ってきた。千尋は先ほどカオナシが家の中から持ってきてくれた、ホットミルク入りのマグカップを差し出す。
「ありがとう。疲れていない?」
「大丈夫。ハクはどう?」
「私も平気だよ。ここで休めるからね」
ハクは微笑みながら千尋の隣に腰かけた。小さな雪の椅子にはふかふかのクッションを敷いてある。テーブルの上には小さなランプが置いてあり、かまくらの中を薄明かりで暖めてくれる。ネズミに変身した坊が、千尋が置いた毛糸の手袋の中で温まっていた。
千尋はミルクを飲み終えると、ほっと一息ついて、名残惜しそうにかまくらの中を見回した。
「これ、明日になったらなくなっちゃうの?」
「そうかもしれない。明日は暑くなるようだから」
「せっかく作ったのに、もったいない……」
「うん。作るのは時間がかかっても、なくなるのはあっという間だ」
そう言って、ハクはマグカップに口をつけた。物寂しくなった千尋はその肩に寄りかかって、目を閉じた。
ハクが千尋の肩を抱く。
さく、さく、とカオナシがスコップで雪をかく音が聞こえた。
そろそろ戻らなければいけない。千尋は膝にかけていたマフラーを、首にしっかりと巻き直した。
「千尋」
ハクの声が、前かがみになってかまくらを出ようとする千尋の背中を追いかける。
「なくなってしまったら、また作り直せばいい」
千尋が白い息をはきながら振り返る。
ハクは、もう一言付け足した。
「一緒に」
千尋の心にじわりと温かいものが広がった。胸をおさえながら、彼女は力強くうなずいた。
2017.12.12