閉ざされた庭
見覚えのある風景だと感じた。記憶の通りならば──と裾野を進んでいけば、果たして道脇に青々と生い茂った桐の大樹がそびえている。太く頑丈な枝からは何かがだらりとぶら下がっている。
「アッ。殺生丸さま、もしやあれは……」
邪見もようやく思い出したらしい。それはすっかり縄のちぎれてかたむいた、いつの日かの
「なつかしいですなあ。あれは、つまらない、つまらないとだだをこねられ、この邪見めが作ったものにございますれば──」
「……」
「人間の子らが遊んだのやもしれませぬ。しかし、こうも壊れていては、ちとさみしいものですなあ……」
邪見は短足でぴょんぴょんと跳ねながら、壊れた鞦韆をなおそうとする。が、阿吽を連れておらぬため、どうにも手が届かない。
するとしばし静観していた殺生丸が、桐の木陰に足を踏み入れた。
「どけ。邪見」
「……はっ、も、申し訳ありませぬ」
無謀な努力をつづける従者を傍へ追いやり、年月を経てちぎれた縄へ手をのばす。器用に結わえてやれば、かたむいていた鞦韆は元通りになった。
「さすがは殺生丸さま。りんのやつも、きっと喜んでおりましょう」
人心地がついたらしい邪見は、とめどなくあふれる泉のごとくあの少女にまつわる思い出話──もとい苦労話を語り聞かせた。時に笑い、時に歎息し、時に涙ぐみさえしながら。普段であれば「うるさい、邪見」の一言で黙らせる殺生丸も、この時ばかりはなすがままにさせている。
──おかえりなさい、殺生丸さま!
初夏のなだらかな風が、まるで誰かが漕ぎだしたかのように、空の鞦韆をゆったりと揺らしている。
自然のうちに耳をそばだてつつ、殺生丸は目を閉じた。
19.06.02