余 醺
祝い事は陽気かつ盛大に。あたかもそれがこの村の掟であるかのごとく、日が高く昇ってもなお高揚さめやらぬ祝宴の中に人びとはいた。
「かごめさま、ささ、もっとお召し上がりくださいな」
赤ら顔をした村の女に空になった杯を満たされかごめは笑う。酒の尽きる気配がない。主役はとうに席を辞したにもかかわらず、誰もがまだ祝い足りぬらしい。
「おい」
かわらけの杯の縁に口をつけようとして、横からやんわりと取り上げられる。男衆に混じっていたはずの犬夜叉がすぐそばにいた。かごめが取り返そうとするより先に、杯の中身をこれ見よがしにぐいと呷る。
「もうやめとけ。大上戸でもあるまいし」
かごめは拗ねて頬を膨らました。
「そんな顔したって、だめなものはだめだ」
「どうして? 他のみんなはまだ飲んでるわ」
「余所は余所、うちはうちだろ。──ほら、もう帰るぞ」
村人たちからひやかされながら、かごめは犬夜叉に手を引かれて外へ出た。ともじに踏みつつ危なっかしく歩いているのを、犬夜叉が振り返って苦笑し、
「ほら見ろ。やっぱり酔っぱらってる」
「酔ってなんかないわ」
「酔っぱらっいはなあ、みんなそう言うんだよ」
何度か押し問答するが、犬夜叉に背負われると、かごめは急に大人しくなり、そのあらがいがたい心地よさに目を閉じた。
「きれいだったね。りんちゃん……」
土を踏みしめる犬夜叉の歩調はゆるやかだ。
「あいつら、おれたちを似た者兄弟だとよ。──ったく、寒気がするぜ」
「それ、お義兄さんが聞いたらなんて言うかな?」
ぞぞっと身震いする犬夜叉の背中で、かごめは声をこぼして笑った。
「ねえ。いつか、私たちにも向こうにも子どもが生まれたら、いとこ同士で遊ばせてあげたいね」
「……殺生丸の野郎に瓜二つのガキなんざ、おれはまっぴらだからな」
「またそんなこと言って。お義姉さんから生まれる子だもん、かわいいにきまってるじゃない」
だといいけどな、とほんの少しばかり目元を和らげながら、犬夜叉は青く晴れ渡る中天を見上げた。
19.05.19