One cannot love and be wise
恋は思案のほか




 ソフィーは大いにあきれていた。どこからかやんちゃな子犬でも迷い込んできたかと思うほど、上の階が騒がしかった。なんでも、犯人はずっとしまっておいた瓶詰めのまじないを失くしたとかで、家中ひっくり返す勢いであちこち探し回っているのだった。
「ひどいと思わない? あたしが掃除したそばから、ぜんぶ台無しにするんだから!」
「ソフィー、それは仕方ないさ。あいつは"散らかす"のが、大の得意なんだもの」
 暖炉の薪にしがみつきながら、火の悪魔はケタケタと笑う。ひとごとだと思って、とソフィーは恨めしげな目をした。
「この家は、どんなに綺麗にしても、しっちゃかめっちゃかになる呪いをかけられてるんだわ、きっと」
 そう言う間にも慌ただしく軋む天井からはパラパラと木くずが落ちてくる。思わず彼女の口から小さな溜息がこぼれた。
「あの人に、綺麗好きになるまじないをかけられたら、どんなにいいかしら……」
「僕に何のまじないをかけるって?」
 別の声が割って入った。ソフィーは目線を動かした。いつの間にやら当の魔法使いが、階段から上機嫌な顔をのぞかせている。
「探し物は見つかったの?」
 皮肉をこめるソフィーに足取りも軽やかに近づいて、
「二十年近く寝かせておいた、とっておきのまじないだ。失くしたらたまったものじゃない」
「そんなに大事な魔法だったの? だったらなおさら──」
 ソフィーは息を詰める。透き通るように青い瞳が彼女の心をとらえ、そしてのみこもうとしていた。
「僕を見て、ソフィー。……そう、そのまま目を逸らさないで」
 ハウルの声が遠のいていく。
 青い瞳の向こうに青空が広がっていた。その下には彼が連れて行ってくれた、秘密の花畑があった。花に囲まれた水車小屋の中から誰かが出てくる──ハウルとソフィーだった。ソフィーの腕には、可愛い赤ん坊が抱かれていた。
「何が見えた?」
 ソフィーははっと目を見開いた。ハウルの端整な顔がすぐそばにある。小首を傾げ、彼女の答えを待っている。
 あれは、もしかして、ハウルとの──。
 ほんの一瞬だけ見えた白昼夢のようなものだったが、彼女を赤面させるには十分だった。
「……二十年も寝かせておいたって、いったい、どんな魔法なの?」
 魔法使いは、少年のように純真な笑顔をみせた。



19.05.18
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