"Only Her Mother Knows"




 鉢合わせてしまった。犬夜叉は脂汗をかきながらじりじりと後退した。祠にとんぼ返りするつもりが、相手は買い物袋を提げたまま、晴れやかな笑顔で近づいてきた。
「かごめを迎えにきてくれたの?」
「あ、いや……」
「ごめんなさいね。あの子いま、学校なのよ」
 喧嘩別れしたことがこたえてこっそり様子を見にきたのだ、──とは情けなくてとても言い出せなかった。結局、成り行きで家に上がることになる。
 茶や菓子をすすめられるが、犬夜叉は首を横に振った。いつかごめが帰ってくるかと思うと気が気でなかった。するとかごめの母はその様子を察したのやら、いつもの他人を拍子抜けさせるような、のんびりとした声をかけてくる。
「犬夜叉くんが来たこと、かごめには、内緒にしておくからね」
「え」
「いま、テストのことで頭がいっぱいみたいだから」
 よかった。かごめの怒りが和らぐまでは、自分は気配を消していた方がいいに決まってる。──ほっとする反面、犬夜叉はどうも目の前の女性に合わす顔がないように思われ、溜息まじりに頭をかかえた。今回の喧嘩とて原因は自分にあるのだから、かごめに愛想を尽かされるのも、当然の報いだった。
「かごめは……」
「?」
 元気にしてるかと聞きたかったが、向こうにいるよりもよっぽど元気に違いない、と思い直す。かごめがいなければ犬夜叉は二進も三進もゆかなくなるが、かごめの平穏な日常は、犬夜叉がいない時にこそ得られるものなのだ。
 眉を下げて情けない顔をする犬夜叉を、かごめの母はおだやかに見つめている。
「愛の試練かしら」
「……は?」
「愛されてるのね、うちの娘は」
 犬夜叉は、首すじまで赤くなった。



19.05.12

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