つらう

 阿漕あこぎなのではないかと、再三口にしてきたことを、犬夜叉は今日もまた指摘した。
「そんなことはない。妖怪退治という労働に対して、当然の報酬をいただいたまでだ」
 無論、弥勒の切り返しにはいささかの躊躇もみられない。取れるところから取る、それがこの法師の揺るぎない信条であることは、共に旅をした犬夜叉にはとうにわかり切っている。
 ──のだが、俗な人間などよりもよほど正義感が強く一本気なたちの彼には、どうも荷車にうずたかく積まれた「報酬」というものが、弥勒のいう「当然」に見合わないのではないか、と思われてならないのである。
「そんな目で私を見るな、犬夜叉」
 荷車の上で、ジト目を向けられた弥勒が肩を揺すって笑った。相変わらず悪びれもない。
「いただいてしまったものを今更お返しするわけにもいくまい。これもあちらのご厚意と思って、素直に受け取るべきだと私は考えるが?」
 それに、と横目で犬夜叉を意味ありげに流し見ながら、弥勒は畳みかけた。
「おまえも蓄えが必要だろう」
「は?──おれが?」
 きょとんとする犬夜叉に、弥勒は物分かりの悪い子を諭す親のようなやさしい顔を向ける。
「今まではおまえの身ひとつだっただろう。だからおまえは何も要らないと言っていた。だがこれからは、かごめさまと所帯を持ったわけだから、何かと物入りになるぞ」
「あ、そうか……」
 それもそうだ、と犬夜叉は素直にうなずく。住むにも、食べるにも、着るにも頓着したことのない犬夜叉だが、生身の人間であるかごめはそうもいくまい。高木の枝を寝床にしたり、何日も食べ物を口にせずとも平気でいたり、火鼠の衣だけで年がら年中過ごしたりといった芸当は、とても常人に真似できるものではない。
「かごめには、みじめな思いはさせたくねえな……」
「そうだろう?」
 弥勒は首肯し、片方の口の端を持ち上げた。
「いずれはお子も生まれるだろうからな。今から滋養のあるものを食べさせて差し上げるべきだ」
 薬老毒仙の秘蔵の酒でもあおったかのように、犬夜叉は顔を紅潮させた。
「てめえはいつも、一言多い」
「何を照れている?私はただ、夫の甲斐性について教えてやっているだけだぞ」
 しばらくにやにやしながら犬夜叉をからかっていた弥勒だったが、村に近づいてくると、殊更やさしい顔になって言った。
「おまえは今までの報酬をすべて私に譲ってきたが、これからは、折半することとしよう」
「阿漕なてめえらしくねえな、弥勒」
「何を言う。──私も珊瑚も、いつかこうなることをずっと待ちわびていたさ」
 錫杖をすずやかに鳴らしながら弥勒が笑う。その錫杖の先端に照りつける夕日が眩しくて、犬夜叉は悪態まじりに目をそらした。



2019.03.24


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