贈 り 物



 時折、客の入りが少ない日には従業員たちの早上がりが許されることがある。
 例えば今日のように、大雪で川の水が凍ってしまい、駅舎からの渡し船を出せない日などは、皆で大座敷に集まり、かるたやトランプや花札遊びに興じて夜を明かすのだ。
「あーっ、ちくしょう、負けたぁ!」
 厨房係の蛙男が悔しげにカードを投げ出した。ババ抜きにおいて意外な才能を発揮してみせた千尋は、湯女仲間たちからの拍手喝采を浴びている。
「今回の賞品は、千がもらっておきなさいよ」
 と、別の部屋の湯女がにやにやしながら千尋の手に何かを押しつけてきた。
 蛙男たちの羨望の眼差しが向けられる。首を傾げる千尋の傍らで、それが何かをちらりと確認したリンが顔を赤くした。
「こんなもの、千には使いようがねえだろっ」
「あらぁ、リンったら。そんなのあたしたちには分かりやしないじゃないの?──ねぇ、千?」
 紙に包まれた粒のようなそれらは、聞いてみれば釜爺の特製で、それはそれは効き目のある「薬」とのことだった。けれど女性には必要のないものだという。
 だったら、と千尋はその足で帳場を訪ねてみた。男性ならば使い道があるということだろう。千尋が贈り物をするような親しい相手は、この油屋に一人だけだ。
「ハク様、これどうぞ」
「私に?どうもありがとう」
 思いがけぬ訪問者に表情を和らげる竜の少年だったが、受け取ったものを目の当たりにするや、ギクッと固まってしまった。
「千尋……これは?」
「ババ抜き大会の賞品だよ。わたしが勝ったから、もらったの」
「……これが何だか知っている?」
「ええと、何だっけ?さっきお姉さま方から聞いたよ。確か、カイシュン……」
 ハクが珍しく慌てた様子で、みなまで言わせまいというように千尋の口を塞いだ。驚いた千尋が表情を曇らせる。
「──ハク、嬉しくないの?もしかして、迷惑だった?」
「あ、いや……そんなことはない。とても嬉しいよ」
「……本当に?」
「……うん。本当に」
 ハクはやや頬を染めていた。ぎこちない笑顔で千尋の肩に触れる。
「さあ、そろそろ部屋へ戻りな。今日が暇だった分、明日は忙しくなるだろうからね」
「うん……。おやすみなさい、ハク」
「おやすみ、千尋」
 いつもと違うハクの態度が気にかかる千尋だったが、顔を洗い、部屋に戻り、湯女たちのおしゃべりに入れてもらった時にはもう忘れていた。
 ひとり帳場に残された彼だけが、想い人からの贈り物を前にして、どうしたものか……と悶々と頭を抱えていた。




2018.12.09
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