日暮らし




 人の世の暦というものを彼はとりわけ気にかけたことはないが、こうして人里に暮らしていれば、否応なしにそのめぐりを目の当たりにする。
 骨喰いの井戸の近くに村の子どもたちがたむろしていた。めいめいが手に杖のようなものを持ち、その先についている槌で、木を削った球を打って遊んでいる。毬杖ぎっちょうという正月の遊びだが、人と交わって生活した経験の乏しい犬夜叉には知る由もない。
「あっ。犬のにいちゃんだ!」
 ひとりが犬夜叉に気付いて手を振ってくる。
 犬夜叉はその懐っこい子どもに別の少年の顔を重ねていた。──井戸の向こうに暮らす、待ち人の弟。
(あいつも、少し背が伸びたかな)
 人間の子どもの成長は早い。筍のように、あっという間にすくすくと育つ。
 あどけない少女がたおやかな大人の女になるのも、きっと、ほんの瞬きの間に、蛹が美しい蝶に羽化するようなものだろう。
 井戸の向こうで年を重ねていくかごめを思うたび、その心は少年の初恋のようなときめきと、過ぎし日を惜しむ寂寥感とに揺さぶられる。
「犬のにいちゃんは、おれの組に入れてやるよっ」
 少年が自分の杖を犬夜叉の手に押しつけてきた。
 ──飛んできた球を、犬夜叉は勢いよく打ち返してやる。
(会いに行けるなら、何千里だって……)
 寝ても覚めても同じことを考えている。日の沈む方角に向かって、空に吸い込まれるように消えていった球を目で追いながら、心は遠く、願えども会えぬ人のもとへ、今にも飛んでいきそうに脈打っている。
 だが、がむしゃらに走り出すことはしない。──いつまでも、ここで待ち続けると決めた。
 幾千里の時の彼方から、かごめが手を伸ばしてくれるその時まで。




(──ヴァネッサ・カールトン "A Thousand Miles" に寄せて)

2019.01.10
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