火種


 竃の火を起こしながら、隣の肩をちょんと小突いた。まるで犬夜叉と競うように、一生懸命息を吹き込んでいたかごめが、とがった唇をほころばせる。
「なあに?」
 ただ、なんとなく。こうして肩を並べる時間が嬉しいような気がして、ちょっかいを出してみただけだ。犬夜叉は犬耳をぴくぴくさせながら、かごめの顔を覗き込む。
「顔に煤がついてるぞ」
「えっ、本当?どこに?」
「ほら。ここに」
 親指でかごめの鼻の頭をぬぐってやる。煤が鼻に入ったのか、かごめは小さなくしゃみをした。寝具として使っている、綿をつめた丹前の中に二人して包まりながら、額を近づけて笑い合う。
「こっちでは、火起こしもひと苦労ね」
「向こうに帰りたくなったか?」
「まさかあ」
 しばらく見守ると、ようやく竃の中がほのかに赤らんできた。犬夜叉の肩に頭をもたれさせながら、かごめがやや上擦った声で聞く。
「ねえ、犬夜叉。きょ……今日は、背中、流してあげようか?」
 ぱちぱちと薪の爆ぜる音がする。火かき棒で生まれたての火をつつきながら、犬夜叉は赤面していた。
「……お、おう。……頼んでも、いいか?」
 合意が成り立った後には、こそばゆい沈黙が訪れた。やけになった犬夜叉は、竃に強く息を吹き込んだ。すると勢いよく火の粉が上がり、二人して盛大に噎せるはめになった。




2019.02.02


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