影踏み



「……だからね、殺生丸さま」
 くるりと背後を振り返る。思いの外、二人の間に距離が開いていたことに気づいたりんは、一瞬きょとんとするが、すぐにまた他愛もないお喋りを再開する。
「春になったら、楽しいことがいっぱいあるんだよ。今から待ちきれないなあ」
 同じ距離を保ったまま歩き続ける。
 仮に以前より隔たりがあるのだとしても、それは決して、彼の歩幅が変わった所為ではない。
 りんの影が伸びた。──ただ、それだけだ。
「殺生丸さまは、なんの花が好き?」
 返答はない。聞かれてもいないのに、りんは自分の好きな花の名を楽しそうに挙げ連ねていく。
「これから殺生丸さまが行くところにも、咲くかな?」
 ──いっしょに行きたい。以前のりんなら、きっと縋りついてねだっただろう。
「もし、もしも咲いてたらね。……次また、会える時に──」
 みなまで聞かず、殺生丸が踵を返した。背を向けられたりんは、それを予想外の拒絶と受け取る。
「殺生丸さま……?」
「──まだ早い」
「え」
「次までには」
 一瞬の間があった。殺生丸の影が、りんの足元まで長く伸びている。
 今にも笑い出しそうな顔になるりんに、木漏れ日の白いきらめきが降りそそいだ。




2019.02.04

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