三世之契




 花嫁と盃を交わす間は、終始無言でいなければならぬという。
 結びの盃、二ノ盃、──そして大結びの盃に至るまで。
(それにしても)
 主格の座についた花嫁を真正面から眺める犬夜叉の双眸が、眩しい朝日を見るようにつと細められる。
(本当に、おれの元へ帰って来てくれたんだな──)
 吉祥の幸菱模様をあしらった白無垢を身にまとい、被衣を頭から被ったかごめが、紅い唇をそっと盃の縁につける。
 これが、最後の盃である。
 長い睫毛の奥からちらりと覗く瞳が、客座を一瞥した後、はにかむように伏せられる。
 花婿にじっと見つめられて、面映ゆいのだろう。
 ──楓の手によって、大結びの盃が回された。
 犬夜叉は、かごめから視線を逸らさず、彼女の口紅の跡がついたところに、思いの丈を込めて自分の唇を重ね合わせる。
 言葉を封じられたからこそ、一層強く伝わるものがあった。
(──かごめ)
 夫婦が来世まで結ばれることを、二世の契りという。
 犬夜叉は、彼女と交わす三献のそれぞれに、切なる願をかけた。
 ゆえに、三世の契りを結んだと言えるだろう。
(次も、その次も、おまえと生きていきたい)
 ──式三献の儀を終えると、待ちかねたというように、花婿が花嫁を抱いてどこかへ行ってしまった。
「犬夜叉のやつめ。かごめを独り占めしおって」
「今日くらいは好きなようにさせておやり。やっと手に入れた幸せなのだから」
 宴の席で花嫁を祝うことを楽しみにしていた小狐が悔しがるのを、老巫女は微笑ましげになだめた。
 ──花婿と花嫁が村に帰還したのは、それから三日後のこと。




2018.9.10


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