─ 星影 ─
「ハク様」
あたりを見回して、千尋はこっそりささやいた。
「今なら、誰もいませんね?」
思いがけず二人きりになれたことが嬉しくて、自然と声が明るくなる。
上役然としていたハクの表情も、彼女にとって親しみ深いものに変わっていく。
「今日は宴会が入っていたね。普段よりも、忙しいだろう」
「うん。でも、もうお開きになったから大丈夫だよ」
宴会場に使われた三天の広間は、わずかばかりの食器を残すのみとなっている。ここの後片付けが済めば、今日の千尋の仕事はおしまいだ。
「まだ酒の臭いがするな。少し、窓を開けようか」
通り過ぎざま、ねぎらうように、彼女の肩にハクの手が置かれた。
千尋は、その背を視線で追いかける。
海から吹き抜ける湿った夜風が、水辺の柳のように穏やかに、彼の髪を揺らしている。風の匂いだけで、彼には明日の天気がわかるらしい。
「千尋」
振り返ったハクが、柔らかく微笑みながら手招きした。
「明かりを消して、こちらにおいで」
千尋は言われた通り、天井の照明を消して窓辺に近づいた。
夜行列車が線路を走る音が、下のほうから聞こえてくる。こんな時間にも電車が通るんだと、千尋が欄干から下を覗き込むと、隣でハクがそっとささやいた。
「空を見てごらん」
欄干においた手に、彼の手が触れてきた。指と指が絡み、離さないというように強く握り締められる。
隣のハクは、夜空に燦然と散らばる星を見上げている。
夜の闇が深ければ深いほど、星明りは際立ってまぶしいものになる。
「今夜は星がきれいだ」
輝くようなその瞳が、千尋に向けられた。
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#ふぁぼした人の絵を勝手に小説にする
ツイッターより。
サクラ(咲)さん(@sakura_rumic)が描かれた、
こちらの素敵イラストに寄せて書かせていただきました。
サクラ(咲)さん、ありがとうございました。
2018.04.08
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