優しくも愛らしき




 日給5,000円の単発アルバイト。
 5時間勤務なので、時給に換算すれば1時間あたり1,000円ということになる。
 臨時収入を得るためには、なかなか割のいい仕事だ。
「それで、サンタさんになったんだ?」
 りんねは口ひげの奥で笑い返した。
「トナカイじゃなく、化け猫に乗ったサンタクロースだがな。子どもたちは喜んでくれたよ」
「幽霊の子どもたちにプレゼントを?」
「ああ」
 桜は彼がはずしたサンタの赤い帽子をかぶっている。今夜は狭いクラブ棟でクリスマスパーティーだ。そのうち六文があの世からも現世からも参加者を連れてくるだろうから、今は貴重な二人きりの時間だ。
 クリスマスケーキにイチゴを飾りつけながら、桜が本気か冗談かわからない口調でつぶやいた。
「サンタさんかあ……。いいな、私のところにも来てほしかった」
 りんねの耳がぴくりと動いた。
「真宮桜にも、ほしいものがあるのか?」
「うん、あるよ。靴下には入らないものだけど」
「なるほど。それは、大きいものなのか?」
「うーん。そうとも言えるし、違うとも言えるかもしれないね」
 りんねはサンタ服のポケットから、今夜の臨時収入をそっと取り出した。最初から彼女へのクリスマスプレゼントのために使うと決めていた金だ。ちょうどいい。
「何がほしい?クリスマスだから、俺にプレゼントさせてくれ」
 桜が振り返った。目が合うと、急にこそばゆく思えてりんねは後ろ頭を掻く。彼女がとてもうれしそうな顔をしているのだ。こんなに喜んでもらえるとは思わなかった。
「あ、いや。その、大したものは贈れないんだが……」
「お言葉に甘えてもいい?」
「……うん」
 桜はつま先立ちになり、サンタの帽子をりんねの頭に乗せた。
「私、──赤い髪のサンタさんがほしい」
 きょとんとした顔で、りんねは自分を指差す。一瞬、からかわれたかと思った。彼女が笑いながらうなずき返すと、蝋燭の明かりでもはっきりとわかるほど、みるみるうちに赤面していく。
「一日だけ。ほんの一日でいいから、独り占めさせてほしいの。……だめかな?」
 ねだる側の彼女もさすがにはにかんでいた。互いの目をまっすぐに見られない。
 りんねは、思わず握りつぶしてしまった5,000円札をポケットにそっとしまいなおした。外は雪で暖房設備に乏しいこのクラブ棟も寒いはずなのに、さっきからやけに暑く感じるのは気のせいだろうか。
「それは、その……デートのお誘いということかな?」
「……そういうことになります」
 彼の頭上でジングルベルが高らかに鳴り響いた。天使のような彼女だから、きっと天に祝福されたに違いない。りんねは桜の手をとって、精一杯喜びの気持ちを伝えた。彼女の望むプレゼントは、彼が胸に抱くささやかな願いごとと一致していた。それが彼にとっては何よりの贈り物だ。
「……確かに、靴下には入らないだろうな」
 浮かれてらしくもなく冗談を言うりんねの手を、桜が握り返してきた。りんねはこのまま踊り出したい気分だった。
 今日という日を輝かしいものにしてくれた彼女に、心からの感謝をこめて。



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