烏鵲橋

 年に一度、空に星の川が流れる夜、彼らの願いはかなえられる。
 カササギが羽を重ねて渡す橋の上で、普段は川を隔てて暮らす二人が、相まみえるのだ。
「去年よりも、また背が伸びたね」
「ハクも、ね」
 手と手をとりあい、微笑みを交わす。この夜を、互いにどれほど待ちわびたことか。
 千尋が渡ってきた時計台のほうでも、ハクが背を向ける不思議の町でも、あちこちで極彩色のネオンがせわしなく瞬いている。
 川の水際はその光をうつして、星空よりも賑やかに輝いている。
「油屋のみんなは、元気?」
 ハクの長い指が千尋の唇に触れた。
「一年ぶりに会えたのに、もうほかの者の話をするの?」
「しばらく一緒にいられるんだもん。色んな話がしたいよ」
「夜は短いよ。──それこそ、瞬きをするようにあっという間だ」
 彼の手のひらが千尋の目を覆う。視界が開けた時、彼女の目の前には、美しい若者ではなく、一匹の神々しい竜の姿があった。
 夢見心地のまま、竜の背にまたがり、千尋は星のない夜空を飛んだ。
 しばらく水上を飛翔したのち、竜は深い森の中に着地した。千尋は促されるまま、服を脱いで泉の中に身を沈めた。水の中で、竜が彼女に口づけをした。長い尾が彼女の体に巻きついてくる。ふさふさの鬣が肌にくすぐったくて、くすくすと笑ってしまう。
「寂しかった?」
 竜は深い緑の瞳を千尋に近づけて、うなずいた。甘えるように、彼女の胸に鼻をすり寄せてくる。愛おしさに千尋の心は満たされる。
「わたしも、寂しかった。会いたかった──コハク」
 目を閉じて、再びゆっくりと開けると、もう水の中ではなかった。竜ではなく、若者の姿をした彼が、わずかに眉を下げて微笑んでいた。
「言っただろう?──私達の夜は、瞬きの間に過ぎてしまうんだ」
 彼は千尋をそっと抱き締め、腕の中から解放すると、名残惜しそうに距離をとった。
 橋渡しをしていたカササギ達が一羽、また一羽と星空へ飛び立っていく。
 千尋は遠ざかっていくその瞳を見つめた。彼も、千尋を見ていた。瞬きさえ忘れて互いに見つめあった。脳裏に相手の顔をとどめておくために。
 向こう一年、また、会えない日々に耐えられるだろうか。




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