おまえは醜いと、揶揄されることに慣れていた。
 それを口にするのは母方の親族であったり、見ず知らずの妖怪であったり、父方の遠縁であったり、通りすがりの人間であったりした。
 醜悪なものは飽きるほど目にしてきたのに、美しいと呼ばれるものが何であるかを知らずに生きてきた。
 ただ一人、その姿かたちを忘れがたいと思った人間がいる。その女の横顔だけは、一日じゅう飽きることなく見つめていられた。──だが、その美しさは半妖ごときが触れてはならぬものであったのか、長くは留まってはくれなかった。
 憎しみにゆがんだあの顔が、長い眠りにつく前に見た最後の光景だった。
「──あんたを初めて見た時、」
 御神木に触れたまま、犬夜叉は振り返る。
 少し離れたところから、巫女姿の女がこちらをじっと見つめている。
 あたかも、あの日を追体験するかのような錯覚にとらわれた。
 封印された日ではない。
 永遠のように長い封印から、解放された日のことだ。
「ちっとも怖くなんてなかった。──ただ、きれいだなって思ったの」
 犬夜叉の目が丸くなる。予想だにしなかった言葉だ。
「きれいだなんて言われて、喜ぶ男がいるか?」
「だって、本当のことなんだもん」
「……変わってるな、おまえ」
 初めてだった。誰かに面と向かって、美しいと言われることは。
 かごめは地面に浮き出た木の根をうまくよけながら、御神木に近づいてくる。頭上から差し込む木漏れ日が、その足元でやわらかく揺れている。
「口を開けば、憎まれ口ばっかりだったけど」
「……悪かったな」
「ふふ。でもなぜか、私は憎めなかったのよね。最初から、あんたのことを」
 かごめが腰のあたりに抱き着いてきた。小さな頭の旋毛をじっと見下ろしていると、顔を上げて、まぶしそうに笑いかけてくる。
 犬夜叉は、心臓をつかまれたような気分になる。
「──大好きよ。犬夜叉」
 目覚めて最初に見たものが、この顔で本当によかった。
 


17.11.16


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